第10話


「卓也氏、昨日のアニメ見ましたか?」


「おう、もちろんよ」


「今期注目株とだけあって、なかなかの迫力でした。拙者、興奮のあまり失神するかと思いましたぞ」


「わかる。なんといっても戦闘シーンの作画が半端なかったな」


昼休み、数日ぶりに俊也とアニメ談議に花を咲かせながらお昼を共にしていた。


「ところで、卓也氏」


「なんだい、マイブラザー」


「気のせいじゃなければ、凄まじいまでの視線を感じるでござる」


「奇遇だね。僕も同じことを感じていたところだよ」


僕らはほぼ同時に顔を上げると、そこには同じクラスの女子、吉田さんが教室の前のドアからこちらを覗いていた。


「学校三大美少女の一人が、なんで拙者たちのことを見てるんでしょうか……」


「なにその四天王の肩書みたいなの」


「卓也氏、少しは周りに関心を持つことをオススメするでござる」


 俊也は呆れたように大きく息を吐く。


「悪かったよ。で、その肩書は何ぞや」


「文字通りでござるよ。この学校にいる三人の美少女でござる」


「吉田さんと、あとの二人は?」


「お姫様と、一つ上の学年にいる鈴山って先輩でござる」


「はへー、夏美ってそんなはよく分からん肩書持ってたんだな」


「そうでござるよ。だから卓也氏と付き合いだしたとなって、学校中騒然でござる」


「そりゃ、各方面に悪いことしたな。てゆうか、学校の美少女このクラスに集中しす

ぎじゃね?」


「ゆえに、奇跡のクラスと呼ばれてるでござる」


「そんな、某バスケ漫画みたいな……。幻のシックスマン出てきそう」


「集英社に媚びとけば、ギリ怒られない範囲でござるな」


「んで、その美少女がなんでこっち見てるんだろうな」


「それが分かれば苦労しないでござる」


そんなことを話しながら、再び吉田さんの方を見て見れば、彼女はいつの間にか消え去っていた。


「いなくなってるな」


「いなくなってるでござる」


「気のせいだったのかな」


「気のせいにするのが吉でござる」


再びアニメ談議でもしようと口を開きかけた時、不意に肩を叩かれビクリと体が浮かび上がる。


「西村君、少しいいですか?」


「うわ、ビックリした……。なんですか、吉田さん」


そこにいたのは、ついさっきまでこちらを見ていた吉田さんだった。


「少しお話があって……。今お忙しいですか?」


「いや、かまわないけど……」


「ここではなんですので、場所を移しましょう」


「ああ、はい」


そう言って、移動した先は屋上へと続く階段の踊り場。ここには滅多に人が来ないので、何かを話すのにはうってつけだろう。


話とは何だろう。そう思いながら、彼女が話し出すのを待っていると、突然ニコニコの笑顔で僕を見る。


「ところで、夏美ちゃんの幼馴染って本当ですか?」


「え? ああ、そうですけど……。それが?」


「へぇ、ふーん」


吉田さんは上から下まで僕をじっくり眺めた後で、ニヤニヤしながら何か考え込むように顎に触る。

なんとも落ち着かない空間だ。なるべく早く教室に戻りたい。


「で、夏美ちゃんとはどこまで行ったんですか?」


「……どこまでとは?」


「女の子にそこまで言わせるんですか?」


「一応の確認作業なので」


「まったく、西村君は変態さんですね。そりゃあ、もちろんセックスですよ」


……ああ、なるほど。この人、ちょっと頭がおかしいのか。まあ、夏美の友達みたいだし、そういうこともあるか。


「夏美ちゃんに聞いてみたんですが、答えてくれなくて。なら、知ってる人に聞くのが一番いいですよね」


「うん、普通に答えないかな」


「なんでですか⁉ たかだかセックスしてるかしてないか、答えるだけですよ?」


「たかだかってレベルの質問じゃないかな、それは。それに、初対面の人にそれは、なかなか答えづらいものがあるよ」


「なるほど。つまり、初対面じゃない明日なら答えてくれると?」


「あれっ、耳が狂った?」


直後、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。


「うーん、とりあえず明日また話聞かせてくださいね」


「話しませんが?」


終始話を聞かない彼女に翻弄されつつ、僕らは教室に戻った。

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