第4話 かわいいの基準。
「何ですか、それ。嫌味か何かですか?」
相談者が思い切り眉をしかめる。
「そうですよ、猫田さん。本気で悩んでる人に、何のジョークです?」
怒れる私たちに、彼は
「事実です。
彼女は、顔が小さいのに目が大きいからエイリアンみたいで嫌だ。グラマラスな身体が理想なのに、自分は貧相な身体つきで太れない、と悩んでいました。」
「…おかしいんじゃないの。」
「彼女からしたら、おかしいのはあなたですよ。」
私たちとは、あまりに真逆の美的感覚に言葉を失う。
「美の価値観は多種多様です。
…ところで、あなたが先ほど挙げた基準は誰の基準です?
親ですか?
友人ですか?
メディアですか?
それが心の底から可愛い、と
本当にあなた自身が、そう思えたんですか?
僕は、あなたが本当にそう思って決めた基準なら、誰におかしいと言われようとも貫いたらいいと思います。
ただ、その
他の誰かじゃなく、あなたの意思で引いてください。」
まぁ、僕、人の顔わかんないんですけどね。
…そう締めくくって、猫田さんは微笑んだ。
相談者の目から、涙が一筋つたう。
アイラインが
…その顔は今日一番かわいらしいものであった。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。
相談者を公園の出口まで見送って、猫田さんと2人になる。
「本当なんですか。人の顔がわからないって。」
「なんとなくの表情とかシルエットならわかりますよ!」
それを、世ではわからないに分類するんです!ってツッコミは自重した。
コンプレックスかもしれないし。
「…それでどうやって人を見分けてるんです?」
私のこと、ちゃんと認識してるよね…?
猫田さんは、うーん。と少し考えてから
「匂いとか声とかですかね?」
…ネコみたいなことを言い出した。
「特に川合さんは、わかりやすくくていいです!」
…この野郎、いい笑顔で爆弾投げやがった。
臭いって意味か?
変な声って意味なのか?
…いや、猫田さんは皮肉が言えるほどコミュニケーション上手じゃないな。
そう自己完結させる。
あれ、そういえば、
「カウンセリング料金とかってどうしてるんです?」
地味に気になってたことを聞く。
「…貰ってませんよ?
たまにオキモチ代?をいただくことはありますが。」
…お金儲けのためじゃないって本心だったのか。
相談者以上に満足気な猫田さんは、ずいぶん俗世離れした思考をお持ちのようだ。
うん、やっぱり―
「やります。アシスタント。」
私の唐突な宣言に猫田さんは目をパチパチさせた。
ネコ太もびっくりすると、こんな仕草してたな…
じゃなくて!
「猫田さん、常識に疎すぎて、いつか騙されて壺買わされたり、相談者の
そうなる前に止めますし、怒られたら一緒に誤ります!」
あくまで、”猫田さんが心配だからやります”というスタンスを誇示する。
相談者をたった数十分で、あんな笑顔にさせた猫田さんに憧れましたなんて口が裂けたって言えない。
「お話し仲間が増えて、嬉しいです!
…ところで、フキョウってなんですか?食べられます?」
不思議そうな顔をする猫田さんを見て
という言葉は飲み込んだ。
こうして、私は正式に猫田さんのアシスタントになった。
「次の相談事は、同じ時間・同じ場所で1ヶ月後に聞きます。」
「随分、間隔空きますね。」
「この前の相談者の方が、サビ残反対!無償ろーどーは違法だ!と言っていたので、
川合さんに、いっぱい働かれると僕、捕まっちゃいます。」
その相談者は真っ黒な企業に勤めていたに違いない。…南無三。
心の中で手を合わせた。
「…ボランティアのノリなんで、別に訴えませんよ。
心理学を専攻してるんで、
この人から、できる限りの技法を盗んでやる!と内心ほくそ笑む。
そして、ゆくゆくは、私も相談者を笑顔にするカウンセラーに―
「…じゃあ、尚更です。
この1ヶ月カウンセリングについてちゃんと調べて学んでください。」
猫田さんは、いつになく真剣な表情だ。
「でないと…」
「…でないと?」
私は固唾を飲んで、返事を促す。
「僕は完全に
…もしかして、
私はこめかみを抑えながら、ちゃんと勉強しようと固く決心するのだった。
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