第18章 直接対決

ララの転移魔法で日菜の家付近の森に移動した三人。


「あっぶねー……」


「ほんと、兄ちゃんは強引なんだから!」


無事だったとはいえ、日菜は気を失ったままだ。


「それで、日菜ちゃんは何でこうなったんだ」


「それが僕にもさっぱりなんだよ」


ララは突如発動した日菜の能力について、トトに全て話した。


「もしかしたら、個人魔法習得の予兆なのかもな」


「僕たちの時はこんな、暴走するなんてことなかったのに」


「そうだな。コノハの個人魔法習得の時も、こんなことにはならなかった」


悪魔たちが目を付けた日菜の隠された能力は、徐々にその姿を現わそうとしていた。


「魔力の急激増大、そして急激消費。魔法をあまり使ったことがない日菜ちゃんにとっては負担が大きすぎたのかな」


「これからも起きるようなら警戒しておかないと。俺たちも守れる限界があるからな、油断してるとまた攫われかねない」


双子が話している間に、日菜はゆっくりと目を覚ました。


「うーん、ここはどこ?」


「日菜ちゃん、目が覚めたんだね」


ララが日菜の体を慎重に起こす。


「何があったの? カメたちは?」


「俺が一掃しておいた。で、今さっきララの魔法で転移してきたところだ」


トトは自慢げに起こったことを説明した。


「もう、言っとくけどギリギリだったんだからね。あんな大技使って、魔力だって十分じゃないのに、転移に間に合わなかったらどうするつもりだったのさ!」


「無事だったんだからいいじゃねえか。そう堅いこと言うなよ」


「まったく、適当なんだから……」


双子の言い合いは相変わらずだ。日菜はいつも見ている光景にツッコミを入れることなく話に入る。


「私は、なんで倒れてたんだろう」


「あ、えっと、それは……」


ララがもごもごと口を動かしている。この状況で説明してしまうと、また厄介なことになる。


「まあ、カメがいっぱいいたからな、緊張とか恐怖とか、そんな感じで倒れたんだろ。なあ、ララ」


「う、うん! きっとそうだね」


上手く誤魔化せたのか、日菜はなんとなく納得した。


「そっか……なんかごめんね」


「魔法が使えないんだから仕方ないだろ」


「そうだよ。僕たちが何があっても守ってあげるからね」


日菜は不甲斐ない自分に、少しだけ気持ちが沈んだ。役に立てることがないか必死に頭を悩ませるが、どうやっても空回りになることは目に見えていた。


「ありがとう……」


とりあえずお礼だけ伝えた日菜。


「じゃあ、帰るか」


「帰って作戦会議だね」


双子は同時に日菜に手を差し伸べた。それを両手で掴んだ日菜は、双子と一緒に家に帰るのだった。




そこからというもの、日菜は双子や心乃葉に教えてもらいながら、防御魔法だけでも使えるように練習を始めた。


「そうそう、そんな感じ!」


ララは成長の早い日菜に関心していた。


「今日は僕が分かりやすく教えてあげるからね!」


いつもより張り切っているララ。それには理由がある。


「ララ、今日はとても元気だね」


日菜の質問にララは笑顔で答える。


「そりゃあね、日菜ちゃんと二人きりで魔法の練習ができるなんて、この上ない幸せだよ」


「そ、そっか」


日菜は若干引いているが、ララは日菜と何か一緒に出来ることがすごく嬉しいのだ。


「兄ちゃんは魔力回復のための鍛錬で忙しそうだし、コノハも『宿題』っていうのが大変らしいから、僕が頑張らないと!」


「私もいっぱい頑張る!」


二人は気合を入れ直し、防御魔法の練習に励む。


「防御魔法の中で一番簡単な『バリア』は、簡単って言ってもコツがいるんだよ。集中力が途切れちゃったら、その分魔力が分散しちゃうからね」


バリアを作ること自体は簡単だが、それを保つことが最大の試練である。魔力量が少ない子供の妖精は、尚更集中力がカギになってくるのだ。


「僕はもう慣れているから、話しながらでも十分に魔力を込めることができるけど、最初はみんな、ちょっとでも気を逸らすとバリアが消えちゃうからね」


「こ、こうかな……」


ララの教えにより、日菜のバリアは最大三十分保てるようになった。


「さすが日菜ちゃん。次はどうしようかなあ」


「攻撃魔法は教えてくれないの?」


唐突な質問にララは戸惑う。


「あー、それはね……」


「……?」


ララはなるべく真実を伝えたくない、厳しい現実を叩きつけるのは好きではないから、子供の妖精に攻撃魔法を教えない理由を言いたくなかった。


「ちょっとずつやっていけばいいんだよ。今度のんびりやろうね」


「わ、分かった……」


日菜は少し疑問に思ったが、これ以上気にすることをやめ、防御魔法に集中した。


「普通のバリアはもう十分に使いこなせているね。それはこれからも練習を続けるとして、今日はもう一つ防御魔法を教えるよ」


「え、いいの?」


日菜は目を輝かせ、その魔法に期待する。


「もちろんさ。作り出す難易度で言ったらバリアよりちょっと難しいくらい。今回は応急処置程度に教えるから、集中力より反射神経のほうが大事かな」


魔法を使う上での注意事項として、魔力を一定に保つ集中力も大事だが、強い魔法を使うための魔力量、単純な魔力の強さに加え、即座に出したい魔法を出せるかという反射神経、判断力が重要となってくる。


「早く知りたい!」


「分かった。その防御魔法の名前は『カウンター』、自分の身を守りつつ相手の攻撃を跳ね返す魔法だよ」


カウンターの特徴は、相手の攻撃を同じ威力で跳ね返すこと。守ることよりも確実に跳ね返すことを優先するため、強度はバリアに劣る。しかし、使い方によっては攻撃魔法を出し続けるより魔力消費が少なく、相手に攻撃を与えることが出来る。


「どうやってするの?」


「バリアと同じ感じで、出したい方向に掌を向けるんだ。跳ね返すイメージを思い浮かべながら魔法を生成すればできるはずだよ」


そこからは、ララが出す微力の攻撃魔法を日菜がカウンターで跳ね返す、という練習が続いた。




時は流れ、人間界にカメの姿が目立つようになってきた。見つけるたびに倒してはいるがきりがない。そうこうしているうちに季節は冬、トトは魔力をある程度取り戻し、お互いの戦闘態勢が整い始めてきたある日のことだった。


「今日って雨の予報だっけ?」


日菜が学校で授業を受けている最中、教室内でそんな会話が聞こえてきた。その瞬間、地震のような大きな揺れが学校を襲う。


「みんな机の下に避難して!」


先生の指示で児童たちは机の下に潜り込んだ。日菜の近くには双子がついていたが、窓の外を見て異変を察知する。


「これはただの地震じゃない。ついに、あいつらが攻めてきやがった」


「他の子たちにもあのカメが見えてるみたい。僕たちだけで収まる話じゃなさそうだね」


黒い雲に覆われた上空に、数百、数千のカメたちが浮かんでいた。校内放送により、グラウンドへ避難するようにと指示が出た。


「日菜ちゃん、俺たちが食い止めておくから一旦他の人間たちと逃げるんだ。コノハもきっと事情を察して助けに来てくれるはずだ」


「わ、分かった……!」


例のない事態に教員たちは慌てている。児童たちも恐怖で怯えていた。


「さあ、並んで! グラウンドに避難しますよ!」


教員、児童、校舎内にいた全ての人間の避難が完了した。


「こっそり……バレないように……」


日菜は双子が戦っている場所へと走り出し、無事に合流した。


「こいつら、前より強くなってやがる」


「どうしよう、学校も少しずつ壊されちゃうよ」


双子はカメと戦うのに精一杯で、校舎への攻撃を防ぐことが出来なかった。


「やっとここまでたどり着いた……お前たちの故郷のように、人間界もめちゃくちゃにしてくれるわ!」


声の主はカメ軍団のボス、ザーラだった。


「そうはさせないぜ。お前は知らないだろうが、妖精界だってまだ終わっちゃいねえからな」


「そうだよ。僕たちを見くびってもらっちゃ困る!」


双子も、あの時のようにやられっぱなしではない。


「ふん、それはどうだろうねえ。まあ、精々足掻きな」


ザーラは高みの見物といったように、空に浮かぶ玉座に座ってふんぞり返っていた。


「火を吐くカメもいれば、水も吐くし、電気玉も出てくる。まるでサーカスだな」


「そんなふざけたこと言ってる場合じゃないでしょ。これじゃあ弱点が分かんないよ」


確実に攻撃のレパートリーが増えているカメたち。どれも見た目は同じだが、攻撃方法が異なるカメたちに苦戦する双子。


「どうせ固い甲羅で守られてんだ、もう何しようが関係ねえよ」


「はあ、もうやだ……」


そんな会話を繰り広げる双子を目の前に、日菜は精一杯自分の身を守り続けていた。


「私のほうがもうやだあああ!」


バリアを生成、集中しながら強度を保つがカメの強さは並ではない。バリアが壊されるとカウンターですかさず反撃、それの繰り返しだ。


「日菜ちゃん、やるようになったじゃねえか。いつの間にカウンターなんて覚えたんだ?」


「そりゃあ、僕が教えたのさ。日菜ちゃんは優秀だからね」


「そうか、ララにしては懸命な判断だな」


「えっへん。それほどでも」


もちろん双子も、こんなに悠長に話している場合ではない。


「攻撃来るぞ」


「分かってる。とりあえず一か所にまとめるから、後は兄ちゃんどうにかしてよね」


ララも怯えている状況ではないと察した。覚悟を決めたララは静まり返った水面のように冷静だ。


「仕方ねえなあ。おい、カメども! 溺れるか丸焦げか、どっちか選んどけ!」


「みんな仲良く、捕まってくれない?」


ララが家系魔法の『水』を使うのは実に久しぶりだったが、そんなブランクはもはや関係なかった。ララが頭上に生成した泡が、何倍にも大きく膨れ上がっていく。


「マックスバブル」


声と共に放たれた『マックスバブル』は、大量のカメたちを巻き込み、閉じ込めていく。


「よーし、まずは水攻めだな。アクアトルネード!」


トトがまとまったカメたちに水の竜巻『アクアトルネード』をぶつける。それに巻き込まれたカメたちは当然、戦闘不能となった。


「やっぱりきりないねえ」


ため息交じりに話すララは、マックスバブルを作りつつ、周りに植物でできた網を投げ込む。マックスバブルで捕えきれなかったカメたちを、植物網で捕えてそのまま放置。


「おいおい、ちゃんと仕留めろよ」


「だから、兄ちゃんに任せるって言ったじゃん。頑張って」


あまりとどめを刺すのが得意ではないララ。この双子が遠距離で戦っているということは、基本まだ、力の半分すら出していない。話す余裕がある時点でこれぐらいは敵でもないのだ。


「本当、めんどくせえな。適当に炙っとくか」


ララの周りに捕らえられていたカメたちに炎を放ち、一掃していく。


「マックスバブルの方もよろしくね」


「もう、お前がやれよ。はあ、炎釜!」


マックスバブルの下半分を炎が包み込む。泡が弾け、カメたちは丸焦げで戦闘不能に。


「これ、いつになったら終わるのかなあ」


「雑魚どもを放っておいて、ボスのザーラだけ討つっていうのもアリだけどな」


そんな余裕の会話も束の間、他のカメたちとは一味違う、一回り大きいカメが出てきた。


「ボスノモトニハイカセナイ」


「オイラタチガアイテダ」


「ヒネリツブシテヤル」


大きいカメが合計三体、ガチガチに武装している。


「これは、遊んでる場合じゃないな」


「うう、さっきのカメたちの比じゃないよ……」


ララの恐怖心が今頃戻ってきた。


「とりあえず先制、火炎弾!」


「キカナイ」


トトの魔法はカメの腕の一振りで、あっけなく防がれた。


「兄ちゃん、どうするのさ!」


「ちっ、ちょいと本気出すか。ララはそのまま雑魚どもの相手と、日菜ちゃんの援護だ」


「で、でも、三体もいるよ?」


「問題ねえ。やり方は変わらねえよ」


トトは大きいカメ三体に向かって走り出した。走りながら左手から火炎弾で目くらまし、右手から魔法で武器を召喚した。


「くらえ! 炎鞭!」


炎を纏った鞭を右手に握りしめ、三体まとめて縛り付ける。


「ア、アツイ……」


「クルシイ……」


「アツクルシイ……!」


大きいカメはもがいているが、繊細に編み込まれた強度の高い鞭は、そう簡単に千切れない。なぜなら、その鞭を作り出したのは紛れもない、ララなのだから。それにトトの炎が加わることにより、じわじわと相手を痛めつける『炎鞭』と化すのだ。


「所詮はデカいだけのカメが、調子に乗ってんじゃねえ」


その様子を、雑魚を蹴散らしながら見ていたララは、やっぱり兄には勝てないなと思い直した。


「兄ちゃんは、どこまでも強すぎるよ」


そして、この数の暴力に対抗する援軍が、まもなくして到着するのだった。

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