おばあちゃんの知恵と夏の冒険

mynameis愛

【第一章:蒼人の夏休み】

 蒼人(あおと)は、12歳。都会暮らしが長く、常にビルや車の往来が当たり前だった。けれどこの夏休み、両親の都合で田舎のおばあちゃんの家に預けられることになった。スマホやWi-Fiが満足に使えない環境は、当初の彼にとって居心地が悪く感じられた。畳の匂いや蚊取り線香の煙、それに耳鳴りのように響くセミの声。すべてが煩わしいように思えたのだ。

 そんな蒼人の前に現れたのは、地元の子どもたち。畑から歩いて帰る途中なのか、泥だらけの靴や麦わら帽子が印象的だ。

 一人目は恵里奈(えりな・13歳)。彼らのまとめ役らしく、すらりとした体格に落ち着いた眼差しをしている。少し勝ち気そうな口調だったが、相手の状況を察して優しく声をかける気配りも持ち合わせていた。 「都会から来たんだって? ここじゃ退屈するかもしれないけど、一緒に遊ぼうよ」  そう言って差し出してくれた笑顔は、白い歯がまぶしかった。

 二人目は善太(ぜんた・12歳)。元気いっぱいで、にこにこと笑いながら何か面白いことはないかとキョロキョロしている。何事にも好奇心を向ける性格らしく、後ろに隠れている蒼人の荷物を覗き込み、「それ何?」と質問攻めだ。

 三人目は翔夏(しょうか・11歳)。無頓着そうに見えるが、その目つきはどこか鋭い。初対面の蒼人にはあまり興味を示さず、「ふーん」とそっけない返事ばかり。けれど、一瞬だけ垣間見えた表情に優しさのようなものを感じさせた。

 四人目は希善(きぜん・13歳)。年齢のわりに落ち着いていて、よく周囲を観察しているようだ。むやみに会話に加わることは少ないが、必要なときには的確な意見をさらりと口にする。はにかむような微笑みが、田舎らしい穏やかさを感じさせる。

 そして五人目は京果(きょうか・12歳)。地元の学校での成績も良く、コツコツと努力を重ねるタイプ。控えめな雰囲気を持っているが、自分の得意なことや好きなことになると、熱心に取り組む姿が印象的だ。

 初めての田舎暮らしに戸惑う蒼人と、すでに自然と共に息づく生活が当たり前の五人。彼らが顔を合わせたときの空気は、どこかぎこちなくもあり、それでいて新しい友情の芽吹きを予感させる不思議なものだった。

 ほどなくして、恵里奈が「まずは蒼人の荷物をおばあちゃんの家まで運ぼう」と提案した。おばあちゃんの家への道のりは、コンクリート舗装の道がところどころ途切れ、代わりに小石混じりの砂利道や畦道が続く。都会の平坦な歩道とはまるで違い、転べばすりむきそうな道ばかりだ。

 泥にまみれた靴や、稲の香りがする風景を間近に見ながら、蒼人の心は少しずつ揺れ動いていた。ビルの看板もコンビニのネオンもない。それが今は妙に静かで、怖いような、でも少しホッとするような感覚が入り混じっている。

「よし、着いたよ」  恵里奈の声に顔を上げると、そこには広い庭と縁側のある昔ながらの家があった。風鈴がチリンチリンと鳴り、日差しを避けるためにたらされたすだれが涼しげに揺れている。長い軒先の向こう側から、「あんたたち、ほら、あんまり遅くなるんじゃないよ」とおばあちゃんの声がした。

 この夏のはじまりを告げるように、鳴きやまないセミの合唱が響く。都会の暮らしでは気づかなかった自然のリズムに、蒼人はこれから少しずつ触れていくのだろう。彼はまだそのことを意識していない。ただ、まるで新たな冒険が始まるような胸の高鳴りを、小さく感じているだけだった。

 こうして、蒼人と地元の子どもたちの夏が幕を開ける。何もかも違う環境のなか、蒼人は新しい発見を重ねながら、その心に小さな変化を起こしていくことになるのだ。次第に彼は、大自然と温かな人々の暮らしがもたらす「豊かさ」や「優しさ」に気づいていく。そして、その気づきこそが、この夏休み最大の成長へとつながっていくのだった。


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