しがない何でも屋の旅路

万事屋 霧崎静火

route1 出会い

2022年某日。夏が終わり少し朝夕が冷えてきた頃の昼下がり。僕は千葉県成田市にある中古車販売店で営業のやり方を上司から教わっていた。

「…てわけでいかに車を魅力的に、かつお客様にピッタリなものかを簡潔に伝えるか、が勝負になってくるんだ。」

「なるほどなるほど…。」

メモをとる僕を見ながら上司は、あっと声を上げた。

「でもお前…自家用車持ってないからイマイチ理解できないか。」

「でも結局車について理解してれば良くないですか?」

すると上司は、そうじゃないんだよなぁ、と頭をポリポリ掻く。

「例えばお前、文房具屋で店員にペンをおすすめされたら、どうする?」

「実際体感どうなのかまずは聞きますね。」

「だろ?だが店員は、『私は使ってないので…。』て言う。どう思うよ。」

「確かに説得力に欠けるなと思います。」

だろ?と上司は言った。


「てわけでお前も何かしら車を買いな。うちの店にある在庫なら安くしといてやるから。」



「参ったなぁ…。」

翌日。僕は店にある車の在庫をPCのデータで眺めながら迷っていた。

今の時代軽自動車さえも需要が高いからと値段が張る。しかも僕自身は車が大好きで車持つならスポーツカーか精々コンパクトスポーツが良いと思ってしまう人間だ。しかし貯金は無い。

こんな自分が持てる車なんて…と思いながらテキトーにページをスクロールしていたその時、隅に載っていたとある車に目が止まった。

「インプレッサ アネシス…セダンスポーツ?」

「ああそれか。ソイツは…あまり見る必要ないだろ。」

いつの間にか背後にいた上司が気まづそうな顔で言う。

「ソイツはこの店の在庫車でもハズレ品なんだよ。うちの店に買取で来てからかれこれ3年以上展示していたが売れるどころか見に来る人さえいなくてね。……まあ、なんというか、インプレッサの名前を冠している割に性能がどこか秀でていることもなくNA車でパワーも無い。挙句パーツの在庫も全く出回ってないときた。3ナンバーだし種別もセダンスポーツという中途半端な車両だ。そりゃ誰も買わないわな。」

ため息混じりに上司は、他にも良い車両はいっぱいあるぞ、と言った。



「内装は割と綺麗ですね。見る人いないって言ってたから放置されてもっと埃っぽいかと思っていたんですが。」

「ばぁか、誰も見ないからって商品を手入れしない店があるかよ。」

その車は店の事務所裏の空き地に、他の売り物にならなそうな年季入り車両に溶け込むように置かれていた。リモコンキーのロック解除ボタンを押すとワンテンポ遅れてハザードが焚かれ、ガチャっと音が鳴る。そこで改めて乱暴にダッシュボードに置かれている値札へ目が行く。

「…このクルマ、30万で売ってるんですか?!」

そりゃ3年も売れなきゃここまで値段も下がるさ、とボンネットを開けてエンジンルームを眺める上司が言う。やはり内装もエンジンルームもトランクも新品レベルで綺麗だ。

恐る恐る運転席に座り、エンジン始動ボタンを押す。キュキュキュと少しごねた後、車は息を吹き返したかのようにエンジンを唸らせた。

「インプレッサのくせして1500cc。しかも迫力も無ぇ、分かったろ、特にお前は車好きなんだから。」

「コノコニシマス。」

「…は?」


「この子、僕が買います。」

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