透明な友達ー誰にも見えないあの子ー
鈴木あかり
第1話 踵
机の上に置いていた踵がツルリと滑るのが分かった。
左足の甲の上に右足の踵を乗せ、両手は頭の後ろに組んで天井を見上げて座っていた。
天井を見上げていたからといって何か難しいことを考えていたわけではない。
何も考えていなかった。
空っぽだった。
人は危険を感じると今現実に起きている状況をスローモーションに感じることが出来る。
火事場の馬鹿力というのもこれに似ているのかもしれない。
右足の踵がゆっくりと滑る。
それに驚いた私の心臓が『ドン』と太鼓のような大きな音を鳴らす。
右足に吸い込まれるかのように左足もスルリと床の方へ向かっていく。
ゆっくりゆっくり。
でも私は何も出来なくてそのまま両足の踵は地面にすごい勢いで叩きつけられた。
「くっっっ…」
痛すぎて声も出ないとはこのことか。
後ろで男が笑っている。
いや、笑っているような気がしているだけなのかもしれない。
だけなのかもしれないというのは、この男の存在は私にしか感じられていないからである。
そう。
存在を感じるのだ。
今は私のバカげた姿を見て笑っている。
見下しているというより本気で面白いと感じて笑っている。
そんな気がする。
「ダイちゃん笑いすぎだから」
ダイちゃんと呼んでいる。
勝手につけた呼び名だ。
ダイスケと名付け、ダイちゃんと呼んでいる。
この名に意味はない。
何となくダイちゃんと呼びたかったから付けた名だ。
そう、あの日。
あの子もスルリと滑ったんだ。
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