##パート4:氷上の競演
北の大氷原に到着した五人は、極寒の風に身を震わせた。視界一面の白。雪と氷に覆われた大地が、地平線まで広がっている。
「すごい寒さ...」アリアが震える声で言った。
「リリアの特製防寒具のおかげで、なんとか耐えられるわね」シャーロットが言った。
彼女たちは全員、厚い防寒コートに身を包み、特殊な魔法が施された手袋と靴を着用している。それでも、マイナス30度を下回る気温は厳しい。
「凍てつく湖はこの先ね」エリザベートが地図を指さした。「約半日の行程よ」
五人はそり犬に引かれたソリに乗り、大氷原を進んでいく。雪原には時折、白い毛皮の動物たちが見え隠れする。
「あれは...」俺が前方を指さした。
視界の果てに、巨大な湖が見えてきた。その表面は完全に凍りついており、青白い光を反射している。
「凍てつく湖だわ」シャーロットがつぶやいた。
湖に近づくと、その規模の大きさに驚かされた。直径は数キロはあるだろう。湖の周囲には氷柱が立ち並び、まるで儀式用の石柱のようだ。
「ここに神殿があるのね」エリザベートが氷の上を歩きながら言った。「でも、どうやって下に降りるの?」
「古文書には『律動の調和』とあったわね」シャーロットが思い出した。「零の力が必要よ」
俺は湖の中央に向かって歩き出した。氷の表面はつるつるとしているが、リリアの特製靴のおかげで滑らない。
湖の中央に到着すると、そこには氷の中に埋め込まれた大きな円形の模様があった。幾何学的な模様と古代文字が、氷の下に浮かび上がっている。
「ここが入口ね」シャーロットが氷の上にかがみこんだ。「古代文字で『七色の調和』と書かれているわ」
「七色...四つの封印石と、私たちの力のことかしら?」エリザベートが推測した。
「試してみよう」俺は決意した。
俺は四つの封印石を取り出し、氷の上に置いた。紅玉、碧玉、黄玉、翠玉が互いに共鳴し始め、美しい光を放つ。
「みんな、力を貸して」俺は四人に手を差し出した。
エリザベート、リリア、シャーロット、アリアが俺の周りに集まり、手を繋いだ。五人で円を作り、それぞれの魔力を放出する。
氷結、炎、闇、風、そして虚無の律動。五つの力が一つになり、封印石の光と交わる。
氷の表面が7色に輝き始め、中央部分がゆっくりと溶け始めた。円形の穴が開き、下へと続く階段が現れた。
「開いた...!」リリアが驚いた声を上げた。
「神殿への入り口ね」シャーロットが頷いた。
俺たちは慎重に階段を降りていった。階段の両側には青い結晶が埋め込まれ、幻想的な光で道を照らしている。
階段を降りきると、そこには巨大な空間が広がっていた。氷の神殿だ。天井高く、壁や柱も全て氷で作られている。中央には祭壇があり、その上に青い光を放つ宝石が置かれていた。
「藍玉の封印石...」エリザベートがつぶやいた。
「簡単すぎないか?」俺は警戒した。「これまでは必ず守護獣がいたんだが」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、神殿全体が震動し始めた。氷の床から水が噴き出し、それが徐々に形を作り始める。
「来た...!」シャーロットが警告した。
水が凝固し、巨大な氷の龍の姿になった。全長20メートル以上、透き通った氷の体と、鋭い牙を持つ恐ろしい姿だ。
「湖の主...」エリザベートが息を呑んだ。
「準備して!」俺は叫んだ。
五人は素早く戦闘態勢を取った。氷の龍は最初の攻撃を仕掛けてきた。その口から放たれた青白い光線が神殿の柱を貫き、瞬時に凍らせる。
「危ない!」リリアが素早く炎の壁を作り出し、次の攻撃を防いだ。
「分散して!」エリザベートが指示した。
五人は散開し、それぞれの位置から攻撃を仕掛ける。リリアの炎は氷の龍の体の一部を溶かしたが、すぐに再生してしまう。シャーロットの闇魔法も一時的にダメージを与えるだけだった。
「私の番よ!」エリザベートが前に出た。
彼女は両手を前に突き出し、氷結魔法を放った。しかし、予想外のことが起きた。彼女の魔法が龍の体に触れると、龍はさらに強化されたように見える。
「駄目...私の氷結魔法が逆効果!」エリザベートが驚いた声を上げた。
「エリザ、下がって!」俺は叫んだ。
龍が尾を振るい、エリザベートに襲いかかる。俺は咄嗟に飛び出し、彼女を抱きかかえて危険から避けた。
「ありがとう、零」彼女が息を切らして言った。
「コイツは氷を力にしている」俺は分析した。「リリア、お前の炎魔法が効果的だ!」
「わかったわ!」リリアが再び前に出て、強力な炎の渦を放った。
炎が龍の体を包み込み、氷が蒸発し始める。龍は苦しげな悲鳴を上げるが、すぐに水から新しい体を作り出してしまう。
「リリアの力だけでは足りないわ!」シャーロットが叫んだ。
「力を合わせましょう!」アリアが提案した。
俺は瞬時に決断した。「七色虚無波動の準備をする。みんな、力を貸して!」
四人が力を俺に集中させる。氷結、炎、闇、風の四つの力が俺の体に流れ込む。しかし、敵は学習しているようだった。龍は俺への集中攻撃を始めた。
「零、気をつけて!」エリザベートが警告した。
龍の放った氷の矢が俺に迫る。避けきれないと思った瞬間、エリザベートが俺の前に飛び出し、氷の盾を作り出した。盾は氷の矢の衝撃で砕け散り、エリザベートは吹き飛ばされた。
「エリザベート!」俺は彼女の名を叫んだ。
彼女は壁に叩きつけられ、意識を失ったように見える。
「エリザ!」リリアも駆け寄った。
怒りが俺の中で爆発した。今まで感じたことのない強い感情が溢れ出し、虚無の律動が暴走し始める。
「許さない...」
俺の周りの空間が歪み始め、漆黒の光が渦を巻く。これまでの七色虚無波動とは異なる、純粋な虚無の力だ。
「零!」シャーロットが警告した。「力を制御して!」
だが、怒りに支配された俺には彼女の声が届かない。虚無の力が全開放され、純粋な破壊の波動となって龍に向かって放たれた。
漆黒の波動が龍を貫き、氷の体が一瞬にして消滅した。だが、その力は止まらず、神殿の壁にも亀裂を走らせ始めた。
「零、やめて!」リリアが叫んだ。「神殿が崩れるわ!」
シャーロットが俺の前に立ちはだかり、闇の力で俺の暴走を抑えようとする。アリアも風の障壁を作り出す。
「零、戻って!」シャーロットが懇願した。「エリザベートは大丈夫よ!」
その言葉に、俺の理性が戻り始めた。漆黒の光が徐々に収まり、周囲の空間の歪みも元に戻る。
「エリザ...」俺は彼女の元に駆け寄った。
エリザベートは既に目を開き、弱々しく微笑んでいた。「大丈夫...かすり傷よ」
安堵の気持ちが俺を包み込む。そして同時に、自分の力が暴走したことへの恐怖も感じた。
「すまない...力が暴走して...」
「心配しないで」シャーロットが優しく言った。「あなたはエリザを守るために戦ったのよ」
神殿の中央では、藍玉の封印石が強く輝いていた。龍が倒されたことで、封印が解かれたのだろう。
「行きましょう」リリアが言った。「神殿が不安定よ」
アリアが藍玉を手に取り、五人は急いで神殿を後にした。階段を駆け上がり、氷の湖の表面に戻ると、空には美しいオーロラが広がっていた。
「五つ目の封印石...」シャーロットがつぶやいた。
五つの封印石を並べると、それらは互いに強く共鳴し、オーロラのような光を放った。
「あと二つね」エリザベートが言った。「紫玉と七色の封印石...」
エリザベートは俺の腕を取り、「零、さっきはありがとう」と小さく言った。
「こっちこそ」俺は彼女の頬に触れた。「守れなくてごめん」
「お互い様よ」彼女は優しく微笑んだ。
五人はそりに乗り、次の目的地に向かって進み始めた。夜空には美しいオーロラが広がり、その光の下で五人の絆はさらに強くなっていた。
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