## パート4:温泉の戯れ
フロストヴェイル村に戻る途中、アリアが地図を確認して言った。「この先に温泉があるわ。『氷花の湯』っていう名所みたい」
「温泉?」リリアの目が輝いた。「雪山で冷えた体を温められるわね!」
「行ってみる価値はありそうね」エリザベートも同意した。
一行は道を少し逸れ、森の中の温泉宿を目指した。程なくして、木々の間に湯気が見えてきた。
「あれが『氷花の湯』ね」シャーロットが言った。
宿は古風な木造の建物で、周囲には雪を被った美しい庭園があった。
「いらっしゃい」女将が出迎えてくれた。「冒険者の皆さんですね。どうぞ、お寛ぎください」
五人は大広間に通され、温かいお茶と軽食が出された。
「碧玉の封印石を手に入れられて良かったわ」エリザベートが言った。胸元から封印石を取り出し、テーブルに置く。青緑色の美しい輝きが室内を彩った。
俺も紅玉を取り出し、二つの石を並べた。「二つが揃うと、不思議な感じがするな」
二つの石は互いに共鳴するように、小さく脈打っていた。
「黄玉は砂漠にあるのね」シャーロットがつぶやいた。「次は気候が一変するわ」
「でもその前に」リリアが嬉しそうに立ち上がった。「温泉を楽しみましょう!」
「混浴...ではないわよね?」アリアが少し心配そうに尋ねた。
「残念ながら男女別よ」リリアがわざとらしく残念そうに言った。
「リリア!」エリザベートが顔を赤らめて叱った。
彼女たちのやり取りに、俺は思わず笑みがこぼれた。この冒険を通じて、クリスタルローズのメンバーたちはより自然に感情を表現するようになっていた。特にエリザベートの変化は著しい。
四人が女湯へ向かう時、リリアが振り返ってウインクした。「後でね、零」
俺は顔を赤らめながら男湯へと向かった。幸い、他の客はおらず、広い露天風呂を独り占めできた。
「ああ...」熱い湯に浸かると、疲れが溶けていくようだった。雪山の寒さと緊張で凝り固まっていた体が、少しずつほぐれていく。
「ノア、君も入らないか?」俺は肩の黒猫に声をかけた。
「遠慮しておくよ」ノアは湯気の向こうから言った。「猫は元来、水が苦手でな」
俺は笑いながら湯に身を任せた。空を見上げると、夕暮れの空に星が輝き始めていた。
「氷の巫女が言っていた、レインの生まれ変わりか...」俺はつぶやいた。
「可能性はある」ノアが静かに言った。「虚無の律動の使い手は千年に一人と言われている。時期的にも符合する」
「でも、自分がレインの生まれ変わりだなんて...実感がわかないよ」
「焦る必要はない」ノアは諭すように言った。「全ての封印石を集めれば、真実は明らかになるだろう」
温泉に浸かりながら、俺は今までの旅を振り返っていた。魔力ゼロと思われた落第生から、禁忌の力の使い手となり、クリスタルローズのメンバーたちと深い絆を築き上げる...運命の不思議さを感じずにはいられなかった。
ふと、女湯の方から賑やかな声が聞こえてきた。
「やっぱり零のことが好きなんでしょう?」リリアの声だ。
「ちょっと、リリア!」エリザベートが慌てた様子。
「隠さなくていいのよ」リリアが言った。「私たち全員が同じ気持ちなんだから」
「でも...」エリザベートの声が小さくなる。
「巫女の試練でも明らかになったわ」シャーロットの落ち着いた声。「私たち全員が零を愛している。そして、零も私たち全員を愛している」
「ハーレムじゃないの?」アリアの無邪気な声。
「そんな下品な言い方はやめなさい!」エリザベートが叱る声。
女湯の会話が耳に入ってきて、俺は顔が熱くなるのを感じた。温泉のせいだけではない。
「聞こえてるぞ」ノアが面白そうに言った。
「うるさい...」俺は湯に顔を半分つけた。
しばらくして、女湯が静かになった。俺もそろそろ上がろうとしていた時、突然声がした。
「零?まだ入ってる?」
リリアの声だ。男湯の入口付近から聞こえてくる。
「え?リリア?」俺は驚いて体を隠した。「ここは男湯だぞ!」
「わかってるわよ」彼女の声には笑みが含まれていた。「入らないから安心して。ちょっと話したいだけ」
「...何の話だ?」
「さっきの会話、聞こえた?」
「...少し」俺は正直に答えた。
「そう」リリアが小さく笑った。「私たちの気持ち、伝わった?」
「ああ」俺は頷いた。「俺も...みんなのことを大切に思ってる」
「嬉しいわ」彼女の声が柔らかくなった。「私たち、これからどうなるのかしら?」
「正直、わからない」俺は答えた。「でも、一緒にいたいと思ってる。みんなと」
「私もよ」リリアが言った。「じゃあ、部屋で待ってるわね。特別な夜にしましょう」
彼女の足音が遠ざかっていく。
「特別な夜?」俺は首をかしげた。
「さあ、どんな意味だろうな」ノアが意味深に言った。
俺は慌てて湯から上がり、浴衣に着替えた。心臓の鼓動が速くなっている。
宿の部屋に戻ると、そこにはエリザベート、リリア、シャーロット、アリアの四人が待っていた。全員が浴衣姿で、髪を下ろしている。いつもとは違う姿に、俺は思わず息を呑んだ。
「お待たせ」俺は少し緊張した様子で言った。
「ようこそ、零」エリザベートが微笑んだ。テーブルには料理と酒が並んでいる。
「今夜は私たちだけの特別な宴会よ」リリアが説明した。「冒険の成功を祝って」
「そして...」シャーロットが続けた。「私たちの絆を祝して」
「さあ、座って」アリアが俺の隣の席を示した。
俺がクッションに座ると、四人がそれぞれ俺の周りに座った。エリザベートが右に、リリアが左に、アリアが向かいに、シャーロットはアリアの隣に。
「まずは乾杯しましょう」エリザベートがグラスを上げた。
五人はグラスを合わせ、「乾杯!」と声を上げた。
食事をしながら、冒険の思い出話や学園の話で盛り上がる。酒が進むにつれ、皆の頬が赤くなり、会話はより親密になっていった。
「零」リリアが突然真剣な表情で言った。「私たちのこと、どう思ってる?」
場が静かになり、全員の視線が俺に向けられた。
「正直に言うよ」俺は深呼吸した。「俺はみんなのことが好きだ。エリザベート、リリア、シャーロット、アリア...一人一人が特別で、大切な存在だ」
「一人だけ選べないの?」アリアが小さな声で尋ねた。
「選べない」俺は迷わず答えた。「みんな違う魅力があって、みんなを愛している。それが俺の本心だ」
四人の表情が柔らかくなった。
「実は...」エリザベートが口を開いた。「私たちで話し合ったの。零があなたのような答えをするなら...私たちはそれを受け入れると」
「どういうこと?」俺は驚いて尋ねた。
「私たちは競争するけど、憎み合わない」リリアが説明した。「零を共有するのよ」
「共有?」俺の顔が熱くなった。
「言い方が悪いわ」シャーロットが小さく笑った。「要するに、私たち全員が零と特別な関係になる。それでいいということよ」
「古来より『虚無の律動』の使い手には、多くの伴侶がつくと言われている」アリアが言った。「巫女も認めていたわ」
「つまり...ハーレム?」俺は思わず口にした。
「そんな下品な言い方はしないで!」エリザベートが顔を赤らめて抗議した。「特別な絆を持つ集まり...そう言いましょう」
「でも本質は変わらないわよね」リリアがクスクス笑った。
エリザベートが彼女を軽く肘で突いた。
「零」シャーロットが静かに言った。「これが私たちの答えよ。あなたはどう思う?」
俺は深く考えた。彼女たち全員を愛し、大切にしたいという気持ちは本物だ。そして、それは彼女たちも同じだという。
「俺は...みんなを幸せにしたい」俺は真剣に答えた。「それがハーレムと呼ばれようと、特別な絆と呼ばれようと、大切なのはみんなとの絆だと思う」
四人の顔が明るくなった。
「それじゃあ」リリアが立ち上がり、俺に近づいてきた。「契りの印に...」
彼女は俺の目の前で跪き、顔を近づけてきた。そして、柔らかな唇が俺の唇に触れた。炎のように熱い、情熱的なキス。
リリアが離れると、次にシャーロットが近づいてきた。彼女のキスは静かで深く、闇のように神秘的だった。
続いてアリアが俺にキスをした。風のように軽やかで、星のように優しいキス。
最後にエリザベートが俺の前に立った。彼女の氷青色の瞳には深い愛が宿っていた。
「零...」彼女の声は震えていた。
二人の唇が触れ合う。氷のように冷たく、そして炎のように熱いキス。
四人のキスが終わると、俺は言葉を失っていた。夢のような出来事に、現実感がなかった。
「これで私たちは契りを交わしたわ」エリザベートが微笑んだ。
「そう」リリアが頷いた。「零は私たちのもの、私たちは零のもの」
「永遠に...」シャーロットが静かに付け加えた。
「一緒に...」アリアが柔らかく言った。
俺は四人を見つめ、幸せな微笑みを浮かべた。「ありがとう...みんな」
その夜、五人は星空の下で語り合い、互いの体温を感じながら眠りについた。明日からの旅はまだまだ続くが、この絆があれば乗り越えられない試練はない。
ノアは窓辺から五人を見守りながら、満足げに喉を鳴らした。「ついに完成したな...完璧なハーレム」
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