第3話

「死神はつれぇんだよなぁ……」

オレはローブの裾をばっさばっさとはためかせながら、夜の街をふよふよ飛ぶ。

まぁ、飛ぶっつっても羽があるわけじゃねぇし、厳密に言えば"浮いてる"って感じだけどな。

「今日も元気に魂回収といきますか~……」

とか適当に言ってみたけど、正直テンションは上がらねぇ。

だってどうせ、オレが迎えに行ったら怖がられるに決まってるし。

そんなことを考えながら、とあるビルの屋上へ降り立つ。

「っと、ここか」

そこには、若い男が一人。

魂だけだけど。

「……マジかよ」

こりゃあ、飛び降り自殺で死んだくちか?

いかにも人生詰んでます、みたいな顔してるしすでに目には光がねぇ。

オレはフェンスの向こうにいる男の後ろにスッと降り立った。

「よっ。悪ぃけど、魂もらってくな」

男の顔が凍りつく。

「え……?」

「いや、だから、お前死んでんだろ? だったら、魂の回収するわ」

「……っ!!」

男は一瞬、何かを言おうとしたけど――次の瞬間、狂ったように暴れ出した。

「やだ……! やだやだやだ!! 俺、死にたくねぇよ!!」

「お、おい、待てって!」

さっきまであんなに死んだような顔してたくせに(死んでるけど)、オレの姿を見た途端に叫び出す。

フェンスにしがみついて、しゃがみ込む。

「お前、今さらそれはズルくね?」

「嫌だ……死にたくねぇ……助けて……!」

「オレは死神だっつの! そもそもオレが来るのは"お前が死んでる"からなんだけど!?」

――クソ、まずいな。

こいつ、すでにかなりヤバい状態になってる。

魂がぐちゃぐちゃに乱れて、黒い靄が身体から染み出してきてる。

このままだと間違いなく"悪霊"になる。

「……チッ」

オレは軽く舌打ちして、フェンスを飛び越え、男の目の前に立った。

「悪ぃけど、これ以上グズグズされると困るんだよなぁ……」

手を伸ばして、男の額にそっと指を当てる。

「おやすみ」

軽く呟いた瞬間、男の体がゆっくりと崩れ落ちた。

魂はしっかり回収した。

真っ黒になりかけてたけど、ギリギリ間に合ったな。

このまま放っておいたら、アイツは"悪霊"になってた。

……マジで、死神の仕事って地味に重要なんだよな。

「ま、これで一件落着ってことで」

オレは魂を持って、夜の街へと飛び立った。

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