第7話
「解りました。では順に…、ラッコから参りましょうか」
館内地図をちらりと見た仙太郎は、さっき微かに浮かべた笑みなんてもう無かったことのようにいつもの表情で告げる。
地図ももう頭に入ったのか、最短ルートで館内を回る気満々なのが見て分かった。
ダメだわ。
このままだと、今までとなんら変わり無い。
私は今日、『普通のデート』をしなくちゃならないのよ。
ちらりと周囲を見回せば、手を繋いだり腕を組んだりして歩いているカップルが数組目に入る。
…なるほど。
「仙太郎」
「はい」
「手を貸しなさい」
端的に目的を告げれば、仙太郎は表情を変えずに「はい」と平然と頷く。
頷いたからには手を繋ぐのかと思いきや。
「では参りましょうか」
仙太郎は左手で恭しく、私の右手を掬うようにして軽く持ち上げる。
…っだからこれは昔からしてる『エスコート』でしょう!?
触れてるけど形が違うのよ!
「仙太郎…!」
「はい?」
「、」
違うと言ってやりたかったのに、ヒール効果の慣れない距離で視線が絡んで咄嗟の言葉に詰まる。
なんなの、今まで仙太郎に対して言葉が詰まることなんて無かったのに。
自分の感情を伝えた時だって、普段と同じ調子であっさりと言葉にできた。
なのに意気込んだ今日に限ってなんなの…!
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