第3話
そうしたことで、今度は私が仙太郎を見上げる形になる。
背の低い私と視線を合わせるために俯き加減になったせいで、さらさらの前髪が仙太郎の目元に影を作っていた。
漂うのは、甘い藤の匂い。
薄く唇を開いた仙太郎が、声を落とすのを待っていれば。
「朝食が冷めますよ、お嬢様」
いつものように冷静に、無表情に、変わらない呼び方で私に言った。
「仙太郎」
「はい」
仙太郎は昔から私を好きで、そんなことは誰より私が知ってて。
だけど昔から、それを表情や言葉には出さない。
ただ私を見つめるその双眸に、時折燻るような熱が滲んでいただけで。
「馬鹿なの?」
「お褒めいただき光栄ですね」
それでも、莉鏡の家にいた頃より随分マシだ。
ここにくる以前は、仙太郎は私の言葉に言い返すこともなく従順に従っていただけだった。
間違っても暴言を吐いた私に、『お褒めいただき光栄』なんて言わない。
マシになった。
でもそれだけだ。
根本的な部分は、ひとつも変わっていやしない。
「面白くないわ」
吐き捨てて、仙太郎の横を擦り抜けて廊下を歩く。
そんな私の後ろを、仙太郎は何を言うでもなく黙ってついて歩いていた。
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