第12話 エピローグ

街の喧騒が遠ざかる夜、俺はゼインの店の扉を押した。

カウンターの奥、ゼインは相変わらずグラスを傾けていた。


「珍しいな、探偵。」


俺は無言で椅子に腰を下ろし、ゼインのグラスを指で示した。

「俺のも同じのをくれ。」


ゼインはニヤリと笑いながら酒を注ぐ。

「なるほど、今回は"仕事"じゃなくて、ただの暇潰しか。」


俺は小さく笑いながら、グラスを手に取る。


「エミリアのこと、聞いてるか?」


ゼインは肩をすくめた。

「ああ、少し旅に出ると言ってたよ。ジョナサン・ハートの死の真相を知って……か。」


俺は黙って酒を喉に流し込んだ。

「何か言ってたか?」


ゼインはグラスを回しながら、思案げに目を細める。


「……"考え直す時間が欲しい"ってよ。お前ほど行き当たりばったりじゃないからな、ちゃんと先のことを考えてるんだろ。」


俺は肩をすくめる。

「そうか。」


ゼインが探偵をじっと見て、ニヤリと笑った。

「……で、お前はどうするつもりなんだ?」


俺は静かにグラスを置いた。

「俺は探偵だ。依頼があれば、それを追うだけさ。」


エコーがふわりと浮かびながら、軽く笑う。

「まあ、依頼がなくても首を突っ込むけどな。」


ゼインがククッと喉を鳴らして笑った。

「相変わらずだな。」



---


ゼインは少し真面目な表情に戻り、低く言った。

「神の使徒どもは、ちょっとした騒ぎになってるぜ。」


俺は眉を寄せた。

「騒ぎ?」


「お前らを追い出した後、内部で意見が割れたらしい。ローレンスを逃がしたのは正しかったのかどうか、ってな。」


俺はグラスを傾けながら、静かに聞く。


「今のところ表立った動きはないが……いずれまた、何かしらの形で出てくるかもな。」


「そうか。」


エコーが浮かびながら、肩をすくめる。

「まあ、何かあったら"情報屋さん"が教えてくれるだろ。」


ゼインがニヤリと笑った。

「もちろんだ。……タダじゃないがな。」



---


探偵が席を立とうとすると、ゼインが軽く笑いながら言った。


「そうそう、今回の件でオレも儲けさせてもらったぜ。」


俺は軽く片眉を上げる。

「ほう、何を手に入れた?」


ゼインは軽くグラスを掲げながら、楽しげに言った。

「"AI統括局の連中が隠したがってた、ある興味深いデータ"さ。」


俺は少し目を細めた。

「なるほどな。」


「お前には関係ない話だが……ま、いずれどこかで役立つかもな。」


エコーがククッと笑う。

「"お前には関係ない"って言う時点で、いずれこっちにも火の粉が降ってくるフラグだろ、それ。」


ゼインは楽しげに笑いながら、煙草に火をつける。


「さあ、どうだかな。」


俺は溜息をつきながら、席を立った。



---


ゼインの店を出ると、夜風が肌を撫でた。

俺はポケットに手を突っ込み、ふと空を見上げる。


「エミリアも答えを探しているというわけか……」


エコーが浮かびながら、ふわりと肩をすくめる。

「まあ、色々と思うところがあるんだろうな。」


「……だろうな。」


俺は夜の街を歩き出す。


ローレンスは今、どこかで考えているのだろう。

オルフェウスは"正しさを求め続ける"という答えを得て、再び学ぶことを選んだ。


エミリアはAI統括局を去り、自分自身の答えを探している。


そして俺は――


「……行くか。」


エコーがふわりと浮かびながら、小さく笑った。


「次の依頼は、もう決まってんのか?」


俺は軽く笑いながら、言った。


「探偵に仕事がないってのは、暇すぎて困るからな。」


エコーがククッと笑いながら、夜の街に消えていく俺の影を追った。



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