第2話 顔合わせ

 私と姉のドロシーの予想通り、義父のボブと母は恋人同士だった。


 とはいっても夜会などで顔を合わせてお互い淡い恋心を抱いていたというだけで、付き合っていたわけではない。


 その時には既に二人とも親が決めた婚約者がいたからだ。


 義父は再婚相手を打診された時に相手が母である事を知っていたが、母は叔父に命じられたため、ここに来るまで誰が再婚相手なのか知らなかったようだ。


 先ほどまで沈んだ顔をしていた母が、まるで少女のような笑顔でボブに寄り添っている。


 二人だけの世界に入ってしまい、手と手を取り合い屋敷の中へと入って行き私達はその場に置き去りだ。


 私と姉、そして義妹となるエラが呆気に取られて佇んでいると馬車の扉を開けてくれた執事が苦笑した。


「やれやれ。旦那様にも困ったものですね。ドロシー様とアナベル様ですね。この屋敷の執事をしておりますサイモンと申します。お屋敷にご案内いたします。エラ様もご一緒に参りましょう」


 私達はサイモンに案内されてタルボット侯爵家の屋敷の中へと入っていった。


 玄関を入った途端、今までとは段違いの内装にポカンと口を空けてしまった。


 爵位が違うだけでこうも差があるのかと思ったが、元々の伯爵家はそれほど大した家ではなかったそうだ。


 姉に小突かれて顔を引き締め歩き出すと、応接室へと案内された。


 そこのソファーに二人並んで腰掛けて手を握り合って話をしている義父と母がいた。


 私達が入って来て向かい側に腰を下ろした事などまるで気付いていないようだった。


「今、お茶を用意させますね」


 サイモンは私と姉を一つのソファーに座らせ、エラを斜め前の一人掛けのソファーに座らせた。


 私と姉が向かい側の二人のイチャつきにドン引きしている中、エラはキラキラした目を私達に向けている。


 メイドの一人がワゴンを押してきて、私達子供の前にはジュースを、母と義父の前にはお茶を入れると下がっていった。


「旦那様、お嬢様達の目の前ですよ」


 サイモンに窘められ、義父と母はようやくイチャつくのを止めたが、手は繋いだままだった。


「いや、失礼。こうしてトレイシーと結婚出来るとは思っていなかったからね。ドロシーにアナベルだね。こちらは娘のエラだ。アナベルとは一つ下になる。仲良くやっておくれ」


 姉のドロシーはどう思っていたかは知らないが、私は妹という存在が出来てとても嬉しかった。


「ドロシーです。よろしくお願いします」


「アナベルです。よろしくお願いします」


 私と姉が自己紹介すると、エラは嬉しそうに顔を綻ばせた。


「エラです。お姉様が二人も出来るなんて嬉しいわ。お父様、お姉様達をお部屋に案内して良いかしら?」


「ああ、行っておいで。サイモン、娘達を頼むよ」 


 私達を追い出す口実を見つけたとばかりに義父はサイモンに視線を移す。


「かしこまりました。それでは、ドロシー様、アナベル様。お部屋にご案内いたします」


 私と姉にしてもこの場から立ち去れるのは嬉しかった。


 サイモンとエラの後をついて屋敷の廊下を歩く。


 階段を上がり二階に行くと、左右に分かれて部屋が並んでいた。


 右側が母と義父の部屋で、左側に子供部屋があるという。


(私と姉で一つの部屋かしら?)


 そう思いながら歩いて行くと、それぞれ一つずつの部屋が割り当てられていた。


「こちらがドロシー様のお部屋です。そのお隣がアナベル様のお部屋になります」


 サイモンが先ずは姉のドロシーの部屋の扉を開けた。


「まあ、素敵! こんなに広いお部屋を一人で使って良いのかしら?」 


 部屋の中には天蓋付きのベッドがあり、テーブルや椅子、ドレッサーなどが配置されている。


 クローゼットも壁一面に備え付けられていたが、ドレスはまだ入っていないそうだ。


「明日、色々な商会の者が来る手筈になっております。衣装や靴等、お好きな物をお選びください」


 サイモンが事も無げに言うが、子供心にそんなに一度に散財して大丈夫なのかと心配になった。


 隣にある私の部屋も覗いたが、こちらも姉の部屋と同様な装いになっていた。


「ドロシーお姉様、アナベルお姉様。私の部屋も見てください」


 エラに引っ張られるようにして付いていくと、私達の部屋とそれほど遜色ない景色がそこにあった。


 ただ、準備されたばかりの私達の部屋と比べて、そこには生活感が漂っていた。


「お姉様方、これは私からのプレゼントです」

   

 エラがそう言ってテーブルの上に置いてあった包みを私と姉に差し出してきた。


「ありがとう。…開けていい?」


 私と姉は受け取った包みをその場で開いた。


 中から出てきたのは今、エラが首から下げているのと同じペンダントだった。


 ゴールドチェーンに小さな赤い石のペンダントトップが付いていた。


「エラはこんなプレゼントを用意してくれたのに、私達は何も持ってきていないわ。ごめんなさい」


 私が謝るとエラは慌てたように首をブンブンと振った。


「とんでもないですわ。私はこうして家族が増える事が嬉しいんですから、これから仲良くして下さいね」


「もちろんよ。エラ、アナベルからイジメられたら私に言いなさいね。やっつけてあげるから」


 姉がエラに耳打ちしながらわざと私に聞こえるように言う。


「ちょっと、お姉様! 聞こえてるわよ。エラ、ドロシーお姉様にイジメられたら私がやっつけてあげるわよ」


 私も負けじとエラに宣言すると、二人とも笑いを堪えきれずに吹き出した。


 その場でサイモンにネックレスを付けてもらい、私達はまた応接室へと戻った。

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