5話 狂気と炎の対決
真衣が向かった先では村が炎に焼かれる光景が広がっていた。
そして、それを引き起こした山賊と田中達郎がいた。
「あははは! 燃えろ燃えろ! お前達、村の奴ら全員皆殺しにしろ!」
「しかしボス、それだと探してる女も殺しちまうんじゃ?」
「大丈夫さ。腐っても彼女は勇者だし、最悪首だけでも持って帰ればいいからな。さっさと全員殺って来いよ、殺すぞ?」
「は、はい!!」
山賊達は命令に従い村人を襲い始め、村人の一人が山賊に捕まる。
「た、助けてくれ!」
「悪いな、ボスの命令だ。死……」
ドスッ
山賊が村人を剣で斬ろうとした瞬間、真衣が背後から山賊を包丁で刺す。
「……え?」
「あなた、鈍いね」
「ギャァァァ!!」
山賊はそこで自分が刺されたことを認識し悲鳴を上げる。
その後真衣が包丁を引き抜くと山賊はそのまま倒れた。
「そこの人、早く逃げて」
「あ、ありがとう!」
村人が逃げるのを確認したあと、真衣は山賊達の方に笑顔で振り向く。
「あなた達、何で村を襲ったの? まあいいか、それよりも……」
真衣は両手に包丁を持ち、先程刺した山賊から受けた返り血を受けた姿でニヤァ……と口角を上げる。
「最近平和で溜まってたんだ。みんな、私を愉しませてくれるよね?」
「「「「「ひ、ひぃぃぃ!?」」」」
まるでご馳走を前にした野獣のような真衣の姿に怯える山賊達。
しかし、真衣が襲いかかろうとした瞬間……
『ファイヤーボール』
「え?」
大きな炎の玉が出現し、真衣に襲いかかる。
「ギャァァァーーー!!」
真衣はその場から飛び何とか回避するが、先程真衣に刺され倒れた山賊に着弾し、断末魔をあげ灰となった。
「あははは! 流石真衣ちゃん、うまく避けたねぇ?」
「誰? 邪魔するのは?」
真衣は声がした方向を見るとそこには気味の悪い笑顔をした田中がいた。
「あなたは……えっと……誰?」
真衣はふざけてはいない。
制服を着ていることや、自分の名前を知っていることからクラスメートだと言うのは分かったが、それが本当に誰かわからなかったのである。
「おいおい僕だよ、田中達郎だよ。僕は君が制服を着てなくても分かったって言うのに酷いなぁ?」
「え、達郎君?」
真衣は驚いた。
だが無理もなかった。真衣の記憶では、田中達郎という人物はとても大人しく、物静かな性格だった筈だからである。
「全然雰囲気違うけど……」
「君も大概だと思うけどねぇ? まあいいや。僕がここに来た理由……言わなくてもわかるよねぇ? なんせそれが原因で君は城から逃げたんだもんねぇ?」
田中の言葉に真衣は静かに俯く。
「……魔王討伐の方を優先してくれればもしかしてって思ってたけど……やっぱ上手くはいかないよね……よりによってクラスメートが来ちゃうなんて」
「ああ、それは僕が志願したんだよ。真衣ちゃん、君を徹底的に痛ぶって殺すためにねぇ」
「そうなんだ……でも私、達郎君にそんな恨まれることした覚えないんだけど?」
「そりゃそうだろうねぇ。自分で言うのも何だけど完全な私怨だからねぇ。」
そう言うと、彼は自分のことを語り出した。
田中達郎、彼はひ弱で成績もあまり良くない。他人に対して話しかけることもできず、常に劣等感に苛まれながら生活を送ってきた。
そんな自分に比べ、明るくクラスの人気者の真衣。
最初は憧れを抱いていた。いつか自分も彼女みたいになりたいと。
しかし、その気持ちはいつしか変わっていた。
自分がこんな思いをしているのに、何故あいつはあんなに楽しそうにと、彼女を妬むようになった。
そんな中、異世界に召喚され、彼は強力な勇者スキルを授かった。
一方、彼女は精神に異常をきたすハズレの勇者スキルを授かってしまった。
その時、彼は思ったのだ。本当の自分は優秀な人間だったのだと。
そして、真衣は落ちこぼれだったのだと。
だが、それをわからせてやる前に真衣は自分の前から居なくなってしまった。
だから田中は真衣を探した。自分の考えを現実とするために。
己の為に、真衣を叩き潰すために。
「はぁ…………」
話を聞いた真衣は、あまりに自分勝手な理由に大きなため息をついた。
「達郎君の気持ちはよく分かったよ。でもそれなら何で村を襲うの? 用があるのは私だけでしょ?」
「あははは、そんなの邪魔だったからに決まってるだろう? わざわざ探すよりも焼き払った方が手っ取り早いじゃないか。僕の時間はそこらの人間の命よりも貴重なんだ、そんなこともわからないのかい?」
「はぁ……これじゃあどっちが狂人のスキルを持ってるかわからないね。悪いけど、私まだ死にたくないんだ。だから……」
そう言うと、真衣は田中を見て再びニヤつく。
「私の為に死んでくれる?」
「あはは! やれるもんならやってみ……」
田中の言葉が終わる前に真衣は包丁を手に襲い掛かる。
「おっと、『フレイムウォール」』
「きゃ!?」
一瞬で距離詰めた真衣だったが、田中の周りに炎の壁が現れ真衣は一旦距離を取る。
「危なかった、もう少しで火だるまになっちゃう所だったよ」
「残念だったねぇ? 僕が調子に乗って油断するとでも思ったかい? 次はこっちから行くよ。『インフェルノ』」
田中が魔法を発動すると、地面から炎が吹き出し、真衣に向かって襲い掛かる。
真衣はそれを避けるが、周りの地面から次々と炎が吹き出し徐々に逃げ場が無くなっていく。
「えーい!」
真衣は近くにあった木のクワを持ち、田中に向かって投げつける。
「無駄だよ、『フレイムウォール』」
クワは田中の炎で防がれる。
「やっぱ無理だよね、でもおかげでいいことが分かったよ。田中君の炎魔法、同時に展開は出来ないみたいだね」
田中が防御に回った瞬間、、真衣に迫っていた炎が止まった事を確認した真衣はそう確信する。
「あはは、バレちゃったかぁ。流石に同時に操るのは僕も無理なんだよねぇ。
でも、分かったからと言って僕に攻撃が届くかなぁ?『メテオレイン』」
田中は小さい無数の炎を作り出し、雨のように降り注がせる。
「そうだね、私の攻撃が届くのが先か、達郎君が私を倒すのが先か勝負だよ!」
真衣はそう言って、炎の雨の中に突っ込んでいった。
……その頃、村の外れにて。
ドォン! ドォン! ドォン!
「ああもううるせぇな」
真衣と別れて昼寝をしていた那谷だったが、田中が起こした騒ぎによって目を覚ましていた。
「村の方で何かが燃えてやがる……。一体何だって……ん?」
その時那谷の方に走ってくる人影が見える。
それは、真衣に逃げるよう言われたリコだった。
「那谷お兄ちゃん!」
「リコか、何が起こってやがるんだ?」
リコは山賊が村を襲ってきた事、真衣が自分を逃して村に残った事を説明する。
「そうか、まあ真衣が残ったなら大丈夫じゃねぇか? むしろ山賊の心配をするべきだろ」
「でも……」
ドォォォォン!!
村から響く爆発音が途絶えない。
子供のリコでも相手が普通じゃないことくらいわかった。
「……真衣が心配なのか?」
「うん……グスッ」
リコから涙が落ちる。
それを見た那谷はやれやれと言う感じで立ち上がった。
「はぁ……面倒くせぇが仕方ねぇか」
「真衣お姉ちゃんを助けてくれるの?」
「リコ、俺が真衣を助けられるほど強いとでも思うのか?」
「えっと……それは……」
リコが答えづらそうにしてるのを見て那谷は満足そうにうなづく。
「そう言うわけだ。俺に期待するな。じゃあお前は先に逃げろ」
「え、那谷お兄ちゃんは?」
「そんなの決まってるだろ」
那谷は村に向かいながらリコに言った。
「他力本願しに行くんだよ」
……一方、真衣と田中の戦いはまだ続いていた。
田中は苛烈な炎魔法で真衣を攻めるが、掠った程度では真衣の自然回復力上昇によりすぐ回復され。
一方、真衣はその隙をついて攻撃しようとするが惜しい所で田中の防御魔法に阻まれ、お互い攻めきれずにいた。
だが、徐々に田中が押し始めていた。
その要因は……。
「ボスを援護しろー!」
「あの女を撃ち殺せー!」
田中の背後から山賊達が弓を撃ち援護していたのである。
そのせいで攻撃のチャンスがさらに失われていたのである。
「ああもう、邪魔だよ君たち!」
山賊を攻撃しようとすればそこを田中に狙われる可能性があり排除することもできない。
どうしようかと思っていた真衣だったが、そこで視界に大きいスコップが目に入る。
(いいこと思いついた!)
真衣はスコップを拾うと、屋根の上に飛ぶ。
「これでも喰らえーー!!」
真衣は思いっきり振りかぶりスコップを田中に向け投げつけた。
ものすごい勢いで飛んでいくスコップだが、それでも田中の魔法の方が早い。
「ふ、いくらやっても無駄だよ? 僕の炎は何でも一瞬で灰に……」
「燃えないものならどうかな?」
「え?」
真衣が狙ったのは田中本体ではなかった。
正確には田中の手前にある地面。
そこに猛スピードでスコップが直撃する。
すると、その衝撃で土が巻き起こり、田中の炎の壁を突き抜け田中に直撃する。
「ギャャァァーーー!! アッチィーーーー!!!」
土は燃えずとも炎で高温となり、田中に大きなダメージと隙を作り出す。
その隙を見逃さず真衣は高速で田中に近づき、懐に入る事に成功する。
「しまっ……」
「残念だったね達郎君」
真衣はそのまま包丁を振りかぶり田中の眉間に目掛け突き刺そうとする。
しかし、その攻撃が届くことはなかった。
「え?」
真衣は一瞬何が起こったかわからなかった。
振りかぶった腕が動かない。
視線を向けると、田中の腕が真衣の腕をがっしりと掴んでいた。
「なぁーんちゃって」
「!?」
真衣は掴まれた腕を振り解こうとするが、スキルで強化された真衣の力でもびくともしない。
「何でって顔してるねぇ? いつから僕の勇者スキルが炎魔法だけだと錯覚していたんだい? あはは、これ言ってみたかったんだよねぇ!」
「キャャァァ!!」
田中は掴んだマイの腕を握り潰すと、もう片方の手に魔法を込める。
「僕の勇者スキルはねぇ、『魔法拳士』っていう強力な魔法と身体能力を得られるスキルなんだよ。『ブラストナックル』」
田中が握りつぶした腕を離すと同時に魔法を込めた腕で真衣の体を天に向かって殴り飛ばすと同時に爆発が起きる。
大きく空に吹き飛ばされた真衣は、包丁を手放し、そのまま地面に勢いよく激突し、倒れたまま動かなくなった。
「クックック……あーっはっはっは!!!! 最初からこの終わり方を狙ってたのさ!! どうだい!? 勝てると確信した瞬間絶望に落とされた気持ちは!? まあでも君はよくやったよ! まさか僕に傷をつけるとはねぇ!! まあ意味ないんだけどね!」
田中は小さなボトルを取り出し、中身をごくごくと飲み始めた。
これは勇者に渡されていた効果な回復ポーション。
その効果により、砂で負った火傷はあっさりと回復した。
「しかし殺さないよう手加減したつもりだったんだけどなぁ? まだ力の加減がわからないや……お?」
「う……う……」
田中は倒れた真衣が微かに動いている事に気付く。
「あはは! 良かった、まさか生きてるとはねぇ! どうだい、今の気持ちは!? ほら、教えてよ真衣ちゃん!?」
田中が問いかけるが、真衣には声を出す余裕がなかった。
腕の骨を砕かれたうえ、先ほどの一撃で真衣の体は骨も内臓もボロボロ。
狂人スキルで自然回復力が上がっているとはいえ、とても治るような傷ではなかった。
(私……ここで死ぬんだ……)
真衣は自分がもう助からない事を自覚していた。
(何でこんな事になっちゃったんだろう……私はただ幸せに生きたいだけだったのに……異世界に呼ばれて……狂人になっちゃって……クラスメートに恨まれて殺されるなんて……)
真衣の瞳から涙が流れ落ちる。
(……でもしょうがないのかな……私生きてたら人をいっぱい殺しちゃいそうだし……死んで良かったのかも……でも……もう少し……生きたかった……な……)
真衣はゆっくり目を閉じた。
消えゆく意識の中誰かの声が聞こえる。
田中か山賊が真衣を殺そうとしているのかもしれない。
でも、もう自分には関係ない。そのまま意識を手放そうとした瞬間……
「う!?」
何かの衝撃を受け真衣の意識が覚醒する。
目を開けると、そこには、呆れた顔をした那谷の姿があった。
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