他力本願な男は狂人のヒモになりたい
ELEEN
1話 他力本願な男との出会い
日本のとある高校。
その一室が光に包まれ三十人の生徒が消えた。
そして、消えた生徒達は目を開けると大きな純白の城の庭にいた。
生徒達の周りには城の兵士と思われる人間と、王女思われる豪華なドレスを身に纏った美しい女性が立っていた。
王女は手を広げると生徒たちに告げる。
「異世界の勇者様、この世界に来て頂いてありがとうございます! どうかこの世界を魔王からお救いください!」
王女の声が城の庭に響く。
そう、言わなくてもわかるだろう。
生徒達は勇者として異世界に召喚されたのだ。
……勇者召喚が行われた数日後、暗い森の中に高校の制服を着た少女が血塗れで倒れていた。
戦いがあったのだろうか? 少女の周りには異世界でいうゴブリンやオークなど魔物の死体が散乱している。
ザッザッザ……
森の中を一つの人影が歩く音が響く。
その音の主は倒れている少女に近づくと、その手を伸ばした……
「う、うーん……あれ?」
倒れていた少女が目を覚ます。
彼女の名は
赤いショートの髪をした小柄の少女で、先日異世界に紹介された勇者の一人である。
クラスでは明るくフレンドリーな性格から女子、男子問わず好かれている人気者だった。
「やっと起きたか」
真衣が目を覚ますと、黒髪で高校の制服を着た男が真衣を見下ろしていた。
男にしては少し髪が長いらしく、左側に髪を三つ編みにして纏めている。
「……貴方は?」
「俺は
「私は赤月真衣。えっと……」
真衣は、自分が勇者として異世界に召喚され、ある事情で森に入った事は覚えていたのだが、どうして自分が倒れていたのか、そしてこの那谷という人物が誰か分からなかった。
少なくとも、同じ高校の制服を着ていることから一緒に召喚された一人という事はわかるのだが。
「那谷君だっけ? なんで私は森で倒れていたの? それに……キャァ!?」
真衣が辺りを見回すと狼やゴブリンなどの死体が散乱していて、自分が血塗れな事に気づく。
だが痛みはなく、真衣は自分の身体を確認するが怪我もないようだった。
「な、なんなのこれ……もしかして、あなたが助けてくれたの?」
「まあそんな所だな。それより話し合うのは後にしねぇか? 血の匂いで他の魔物が来るかもしれねぇし、いつまでもこんな所にいるのは得策じゃないだろ?」
「そうだね、ここから離れないと……」
真衣は歩くため立ち上がる。
「じゃあ行こっか那谷君」
「ああ、その前に真衣」
「え?」
那谷はいきなり真衣の両肩に手を乗せ真剣な顔で真衣を見つめる。
「え、な、那谷君?」
那谷に迫られドキドキと真衣の鼓動が高まる。
「頼む、俺の……になってくれ」
「……え?」
……数十分後、真衣は森の中を“1人”で歩いていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
彼女は疲れているようで、息を切らしながら歩いている。
しかし、疲れの原因は、歩いている事ではなかった。
「おい、スピードが落ちてるぞ? もっと頑張って歩けよ」
「無茶言わないでよ!? 重いもの背負ってるんだから!」
彼女の疲れの原因はそう、那谷を背負っているからであった。
「俺の“乗り物”になってくれって何なの!? 無駄にドキドキしちゃったじゃん!」
「何だ? あれくらいでドキドキしたのか? うぶなやつだな」
「あんな真剣な顔で見つめられたら普通はするよ!」
「分かったわかった。まあそれよりちゃんと歩いてくれ。早く森を出ようぜ」
「……」
何で女子が男子を背負って運ばなきゃ行けないの? 普通逆でしょ!?
と思いつつも、真衣は那谷をしっかり背負って歩く。
(きっと私を助ける為に戦って力を使い果たしちゃったんだよね……だったら責任をとって私が那谷君を運ばないと……)
真衣は先程倒れていた状況からそう結論づけた為、黙って那谷を背負っていた。
「そういや真衣、一つ聞いていいか?」
「なに?」
「お前クラスの連中と一緒に召喚されたんだろ? 何で一人森の中にいたんだ?」
「……」」
那谷の当たり前の疑問に、真衣は少し考えた後答える。
「それはね、私が城から逃げたからだよ」
「ほう、何で逃げたんだ?」
「ちょっと色々あってね……。城から逃げて森の中にいたの」
「そうか、まあ逃げて良かったんじゃねぇか?」
「え? どうして?」
「勇者召喚って結局は拉致して強制徴兵するようなもんじゃねぇか。そんなやつの言いなりになりたくないってのもわかる」
「うん、言いたいことはわかるけど全然夢がないよ!?」
「何だ? お前異世界召喚でチートしたい系女子だったのか?」
「違うよ!? 最近そう言うアニメ多いけど!?」
「なら悪役令嬢か聖女で逆ハーレムでも狙ってたのか? ま、これが現実だ。元気出せ」
「勝手に決めつけて勝手に慰めるなー!! ハァ、ハァ……」
真衣は心の底からツッコミを入れた。
おかげで余計にどっと疲れ何の話をしてたか分からなくなる。
どうにか思い出した真衣は逆に那谷へ質問をする。
「そう言う那谷君も召喚されてこの世界に来たんだよね? 何で森にいたの?」
「俺か? 俺は城じゃなくて最初からこの森にいたんだよ」
「え? それってお城に召喚されたんじゃなくてこの森に召喚されたって事?」
「そう言う事だな」
そんな事あるんだろうか?
真衣はそう思ったがそもそも召喚に関して何の知識もない為、事故で位置がズレる事もあるかもしれないと真衣は思った。
「ふーん……そうなんだ……でも那谷君が強い”勇者スキル“を持ってそうで良かったよ」
「勇者スキル? 何だそれ?」
「この世界に呼ばれた時王女様が説明してくれたんだけど……」
勇者スキル。
それは異世界に召喚された勇者が目覚める固有スキルである。
強力なものが多く、過去世界を救った者もいると真衣は王女から聞いていた。
「スキルに目覚めると頭の中に名前と効果が浮かぶから、目覚めていれば那谷君も分かるはずだよ」
「そうだな、俺のスキルは……『他力本願』だな」
「え? 他力本願?」
予想もしなかったスキル名に真衣はつい聞き返してしまう。
「知らないのか? 他力本願ってのはな……」
「いや、意味はわかるよ? でもなんでそんな名前なの? 回復魔法や魔物を倒す力を持っているのに?」
「何言ってんだ? 俺にそんな力はねぇよ」
「え? だって私血塗れだったのに怪我一つ無かったんだよ? それって那谷君が治してくれたんじゃないの?」
「ちげぇーな。後、魔物を倒したのも俺じゃねぇし」
「え?」
真衣の頭に悪い予感が走る。
「え? じゃあ那谷君は何をしたの?」
「お前が倒れていたから声をかけて起こした」
「……一応聞くけど那谷君はもうヘトヘトなんだよね? 歩くのも辛いんだよね?」
「いや、歩くのが面倒だったから、お前に運んでもらおうと思っただけだ。」
「……」
真衣は歩みを止め立ち尽くす。
「おい、何で止まるんだ? 早く歩けよ」
「……自分で歩きなさいこのバカーー!」
「ぐぉ!!」
ブチ切れた真衣は那谷の両足を持ち思いっきり目の前の地面に叩きつけた。
「助けてないじゃん! ただ起こしただけじゃん! この嘘つき! おまけに女の子に歩くのが面倒だからって背負わせるとか信じられない!」
地面に叩きつけられた那谷は、顔を手で押さえながらゆっくりと立ち上がる。
「いってぇな……お前が良いって言ったんだろうが」
「私を助けてくれたと思ったからだよ!」
「いや、俺はちゃんとお前を助けたぞ?」
「じゃあ何をしたの?」
「お前の心を助けた」
「何言ってんのチョーップ!!」
「ぐぉ!!」
真衣、怒りのチョップが那谷の顔面に炸裂し那谷は再び倒れる。
「ハァ、ハァ……もう知らない!」
「おい、置いてくなよ」
真衣は那谷を置いてさっさと歩き出すが、那谷は真衣を追いかける。
「ついて来ないでよ」
「いいじゃねぇか、俺も森を出たいんだからな。それに一人より二人の方がいいだろ?」
「はぁ……しょうがないから良いけど、もう絶対背負わないからね」
「ダメなのか?」
「ダメに決まってるでしょう!! はぁ……」
那谷が自分を助けてくれた王子様だと思ったら、ただのめんどくさがりのクズ男だった事に落胆する真衣だったが、流石に本当に一人置いていく程真衣は薄情者では無く、那谷の言う通り一人より二人の方が良いかもしれないと思った真衣は那谷と共に行く事にした。
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