わし、猫(偽)だけど、今を楽しく生きてる

青銅正人

プロローグ 猫又、飼い猫になる

第1話 わし、帰ってきた

 わし根子岳ねこだけでの修行を終え、貨物列車や長距離トラックの荷台を乗り継いで、故郷の最寄りの街まで帰ってきた。そこからわしは冬枯れの六甲山地の西の外れの山道を北へ北へと歩いて、お家を目指した。


「久し振りに、ばーさんの猫まんまを食べたいな。出汁だしジャコの乗ったやつ」

 兎がでてきたけど、猫まんまの方が食べたい気分だったので、見逃してやった。

「ばーさんの膝で寝るのも良いよな。背中ぜてもらうの最高」

 猪がでてきたので、ちょっと威嚇いかくして追っ払って、道を急いだ。

「風呂のかまどで、ぬくぬくするのも良いな」

 ウキウキしながら、最後の峠を越えた。


 目の前には、懐かしい我が家が……。

「お家が無いーー! それどころか村が無い。代わりに湖があるって、どう言うこと?」

 周りを見回したら、湖の対岸右手側に見間違えようのない蝙蝠こうもり谷のデッカイ一枚岩があるので、場所は合ってる。なのに村の位置には湖がある。小さ目の川しか無かったはずなのに。わしは意味が分からずに、しばらく茫然としていた。


 東の方の湖岸に集落があることに気づいたので、気を取り直してそちらに情報収集に行くことにした。

 集落には、見覚えのある茅葺かやぶきの家があった。場所が違うんだけど、「千年屋」だよなこれ? うん、分厚い茅の屋根とすすだらけで黒い柱、村の唯一の観光資源「千年家」に間違いない。だけど誰も人が住んでない!


 横の真新しい家から、千年屋の当主とうしゅに似ているけど、どこか違う男が出てきた。

「何これ。何これ……」

わしは怖くなって逃げ出した。


 しばらく走って気がつくと、わしは鉄柵の扉があるお寺の前にいた。

「わしの知ってる『浄蓮じょうれん寺』って、こんなのじゃない。山門さんもんは木で……」


 ショックでふらふらと歩いていると、沢山の墓石が並んでいる真新しい墓地に出た。なんとは無しに墓石を見上げると、だいぶ前に死んだじーさんの名前があった。恐る恐る横を見ると、墓石にばーさんの名前が……。


「猫の方が先に死ぬんじゃなかったの? ばーさんを一人にしたくなかったから、わし修行して猫又になったのに……ごめんよ、結局一人にしちゃった……」

 墓石の前にぽたぽたと、水滴が落ちた。猫は涙なんか流さない。墓地にだけ雨が降り出していた。わしの法力が漏れたらしい。

「ちぇー、猫まんま食べたかったのに……ちぇー、ばーさんと畑を見回ったり、縁側えんがわ日向ひなたぼっこしたかったのに……ちぇー、ちぇー……」


 わしは一晩、墓石の前で過ごした後、ねずみを二匹捕まえて、じーさんとばーさんの墓に一匹ずつお供えし、修行で覚えた御経おきょうんで、村を出た。

 お家も無いし、ばーさんもいない、見覚えがあるのに見たことのないおかしな村。

 もうここには帰らない。

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