第8話
姉弟をそれぞれ馬の背に乗せて、手綱を引いて山道を行く。
梓丁は弟の体が冷えないように、自分の上衣でくるんでやっていた。
途中、弟が川に落ちたと思われるあたりで、少女は馬をおりて山菜のかごを回収して戻ってきた。
「いつも、吾怜と一緒に山菜や若菜を摘みに来るんです」
それも子供たちの家族にとっては大事な食料なのだろう。
やがて、山間の小さな集落が見えてきた。
おとなたちに姿を見せてはよけいな気を使わせてしまうので、梓丁は集落の手前で子供たちを降ろす。
「あとは、ひとりでも弟を連れて行けるな?」
少女はうなずくと、持っていた山菜のかごを差し出して言う。
「こんなものしか、お礼できなくてすみません」
「いや、それは」
不要だと言いかけた梓丁を遮り、蒼斗はかごから小さな山菜を2本つまみ、
「俺たちもこれが好きなんだ、1本ずつもらうよ」
そう言って、かごを少女に押し返した。
「それっぽっち……」
少女は戸惑ったようだが、蒼斗がニッと笑って見せると、つられたように微笑んだ。
それから、弟の体に巻き付けられた梓丁の上衣を外そうとしたので、
「そのままで」
梓丁はそう言って少女を止めた。せっかく体が温まってきたところだ、そのまま着せておいてやりたいと思ったのだ。
「でも、こんな立派な着物……」
「気にすることはない」
梓丁の言葉に少女が困った顔をすると、すかさず蒼斗が口を挟む。
「気にするなって言うんだから、もらっとけばいいよ。どうせこのお兄さんは脱いだ着物なんてもう着ないんだから、もったいないだろう?」
よくもそんな嘘を思いつくものだと呆れた梓丁だが、少女が驚いた顔でこちらを見るので、否定はせずに目をそらした。
口の達者な蒼斗が促す。
「ほら、早く帰って弟をやすませてやりな」
「はい。ありがとうございました」
少女は小さい弟の肩を抱いて、蒼斗と梓丁に何度も頭を下げ、集落のほうへと戻って行った。
それを見送り、ふたりは馬に乗った。
空を見上げ、梓丁は吐息を漏らす。
すでに、どうあがいても午後の講義には間に合わない時刻だ。
「あ~あ、大遅刻だなぁ」
蒼斗も思い出したらしく、のんびりとつぶやいた。
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