第29話
「気候がよろしいので、本日の朝食はこちらにご用意いたしました」
リビングの庭に面したガラス戸を開け放って、タキが言った。
そこには洋館らしいテラスがあり、簡素ながらも椅子とテーブルが置かれていた。
テーブルクロスの上に、パンとスープ、サラダや玉子料理などが並べられていた。
美月が久良岐家に嫁いで以降、これまでも朝食が洋風だったことはあるが、こんなふうにテラスで食べたことはなかった。
清々しい朝だ。
風はなく、小鳥のさえずりが聞こえる。
「悪くないな」
煌は短かくそう言って、椅子に座った。
美月も倣って向かいに座る。
相変わらずあまり会話はないのだが、同じ景色を眺めながら食事を共にするのは新鮮で楽しく感じられた。
食後のお茶も、洋食のあとは煎茶ではなくコーヒーだ。
美月は久良岐家に嫁いではじめてコーヒーを知った。はじめは苦くて驚いたが、今では菓子をつまみながらブラックで飲むのが美味しいと思うようになった。
飲み慣れている煌が砂糖とミルクをたっぷり入れ、大きな手で細いスプーンをつまんでかき混ぜるのが、少し可愛らしいと思う美月だ。
ゆったりとお茶を楽しみ、煌は空を見上げて立ち上がる。
「陽射しが強くなる前に、中に入ろう」
「はい」
テラスからリビングに戻る。
そのとき、庭木の向こうの正門脇の通用門からこちらに向かってくる人影が見えた。
「あなたは部屋に戻っていろ」
煌に言われ、美月は素直に家に入った。その際、木々の間からちらりと見えた人物に、見覚えがあった。
(あれは、三條西家の)
結納と婚儀に立ち会ってくれていた三條西家の家司だ。
(どうして、ここに?)
個人的な用件で訪ねてくるはずがない。
(お姉さまに、何か……? それとも、わたしに何か問題が?)
胸に、不安が広がった。
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