第30話 デートをする7

 宿屋に着いたけど、想像以上だった。この世界、性教育にはオープンらしいけど、母親に聞くのは気まずいから、ガンショップのおじさんに「カップルで行く宿屋」なるものがあると聞いたことがある。で、行ってみたら、マジでラブホみたいだ! いつも泊まる宿屋とは全然違う。外観もなんだか豪華で、期待が高まる。


 受付を済ませ、部屋に入った。どうやら4階らしい。異世界転生アニメを見てると、宿屋って4階建てはあんまり見ないけど、こういうのもあるんだな。なるほど。部屋に入ると、セレナちゃんが目を輝かせた。


「すごいね! ランタンが青く光ってるよ!」

「ほんとだ、めっちゃ綺麗!」


 ランタンが青く光るなんて、完全にラ〇ホの雰囲気だ。


「何か魔石があるよ。これを入れ替えれば、ランタンの色が変わるみたい。ねえ、エルフの色っぽい緑に全部変えようよ!」

「いいね、それ面白そう!」


 部屋中の青い魔石を緑の魔石に交換すると、すべてのランタンが鮮やかな緑色に光った。


「部屋が緑できれいになったね! でも、なんか見づらいかも?」


 セレナちゃんがそう言うと、部屋のあちこちにあるロウソクに火を灯した。


「部屋の中を色々見たら、またロウソク消すね!」

「いや、いつでもいいよ。それより、ちょっと座って話そうよ。」

「うん、わかった! …じゃあ、ロウソク消すね。」


 そうして俺たちはベッドに腰かけて話し始めた。


「僕、思ったんだけどさ。最初はあんまり話さなかったけど、今日デートしてて、セレナちゃんってこんなに話すんだなってびっくりしたよ。」

「私は人見知りするから最初は話せないけど、慣れたら結構おしゃべりなの。驚いた?」

「うん! でも、僕としては嬉しいよ。」

「嬉しいこと言ってくれるね!」

「『嬉しいこと言ってくれるね』って、そっちも嬉しいこと言ってくれるじゃん!」

「えー、『嬉しいこと言ってくれるね』って言ってくれて、さらに嬉しいよ!」

「待って待って、ループになるよ!」

「いいじゃん! ヴェスとこんな風に言い合うの、好きだよ。」

「ループってさ、なんか既視感みたいのあるよね。この世界もループしてるのかな?」

「どうなんだろうね?」

「私も考えたことあるよ。そういうの考えるの好き?」

「うん、好きだよ。この世界でわかってないこと、こうかな、ああかなって考えるの楽しい。気分転換にセレナちゃんもどう? オカルトとか面白いよ。」

「オカルト? なんか聞いたことある気がする。」

「幽霊とか、予言とか、秘密結社とか、普段見えない、証明しづらいもの全般かな。まあ、この世界だと魔法はオカルトじゃないけどね。」

「なるほど! 生まれ変わることもオカルトかな?」

「そうだね、そうかも。」

「オカルトもいいけど、私はヴェスと出会えたことが一番嬉しい。また生まれ変わっても、ヴェスと一緒にいたいな。」

「ありがとう、セレナちゃん!」


 その瞬間、気持ちが溢れて、俺はセレナちゃんにキスをした。そして、その流れで二人は愛を確かめ合うように時間を過ごした。結局、朝まで一緒にいてしまった。俺にとって、この世界で初めての経験だったけど、好きな人と過ごす時間は本当に幸せで、死んでもいいと思えるほどだった。…いや、まだ死にたくはないけど!

 朝になって、セレナちゃんが寝ている横で手を繋ぎながら、俺も少し眠った。


 目が覚めると、もう昼前だった。俺が起きると、セレナちゃんはすでに目を覚ましていて、ニコッと笑った。


「おはよう、ヴェス。昨晩はすごかったね。」

「う、うん…!」


 これ、男性が言われたい言葉のベスト10に入るんじゃないか? いや、少なくとも俺のベスト10には入ってる。


「それより、セレナちゃん、お腹すいたでしょ。お母さんも心配してるだろうし、昼ごはん食べて帰ろう。朝ごはんと昼ごはん一緒だから、朝昼ごはんだね。」


「うん、いいね! ヴェスと朝昼ごはん食べて帰ろっと。」


 こうして俺たちは宿屋で昼ごはんを食べ、宿を後にした。今回のデートは本当に楽しかった。きっと、俺が死ぬ間際に走馬灯でよみがえるのは、セレナちゃんとのこんな思い出だろう。まだ短い人生だけど、こんなに充実して楽しくて、忘れられない時間だった。またセレナちゃんとデートしたいな。




 

 

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