「似合わないです!」
ルシィに続いて建物へと入る。
内部に入って数歩進めば、そこからはカウンターだ。
丸椅子が幾つか置いてあるけれど、客のスペースよりもカウンターの向こう側のスペースが広くなっている。
ただただカウンターと丸椅子だけが置かれているだけ。
なんだかラーメン屋を彷彿させるね。もしくは立ち食い蕎麦とか、そういう感じ。
カウンターの向こうでは、浅黒い肌に傷跡があちこちにあるハゲマッチョこと、ガルツさんが腕を組んでいる。
ガルツさんの後ろには商品棚があり、丸薬や薬品、それにいくつかの魔道具などがあるのが見えるのだけれど……身体がデカくて商品がしっかり見えないっていうね。
僕もまだこの世界の薬だとかそういう類はあまり見たことがない。
気になって商品を見ていると、ギロリと眼帯で隠れていない方の目を僕へと向けてから、ルシィに向かって声をかけた。
「なんだ、ルシィ。そっちのガキ拾ったのか?」
ガキとは言ってくれるじゃあないか。
もしチビって言ったり容姿をからかうような真似をしていたら、その巨大な身体に風穴を空けてあげたよ。
まあ悪意がないのであればそこまではしないけど。
「あるじさまです!」
「は?」
「あるじさまはあるじさまです!」
「……おまえさん、もうちょいちゃんと相手に伝わるように説明してくれや」
……うん。
ルシィと交流のある人物というだけあって、ルシィの残念ぶりには慣れているのかと思ったんだけど、そうじゃないみたいだね。
どっと疲れたような顔をしているよ。なんかすっごい親近感湧いたよ。
どうやらルシィに慣れている人物ではあるものの、ルシィを完全に受け入れているような類ではないらしい。
そんなことを考えながら二人のやり取りを見つめていると、ガルツさんがこちらを向いてから頭を掻いた。
「あー、坊主。どういう状態だか説明してくれたりしねぇか?」
「えー、僕もわかんなーい」
「……おい、勘弁してくれよ。つか坊主、おまえさん演技下手くそ過ぎんだろ。棒読みやめろや。だいたい、テメェ、見た目よりもずっと長生きしてるタイプだろ」
おかしいな。
坊主と呼ばれたからアリオンくんクラスのショタぶりを発揮しようとしてみせたというのに、胡散臭いものを見るような目で見られている気がする。
「しらばっくれなくていいぜ。噂程度にゃ聞いたことがある。見た目は『
フンと鼻を鳴らして得意げに言われた。
まあ、少数種族であるのは間違いないと思うよ。だって独立種族だもの。
でも多分、そちらが思ってるようなタイプではないよ、僕は。
とは言え、ルシィもにこにこしているだけで何も説明しそうにない。
仕方ないから諦めてちゃんと対応するべく一つ咳払いしてみせれば、ガルツさんが真剣な表情を浮かべてみせた。
「はじめまして、僕はソウだよ」
「……やっぱりか。おまえさん、貴族だったりしねぇよな?」
「いいや、そんなのじゃないよ。なんでまた?」
「いや、佇まいっつーかなんつーか、落ち着きぶりが普通の手合いとは違うだろうが。ま、そっちの跳ねっ返りが貴族なんかに付き合うなんてこたぁねぇわな。改めて、俺はガルツだ。よろしくな」
――〝疑念〟、〝警戒〟。
なかなかに修羅場を潜っているというか、そんな思念を持っている割には笑って答えてみせるあたり、腹芸もこなせるタイプの人であるらしい。
まあ、ここは迷宮都市グラド。
闇組織というか、裏社会で色々なものが蠢いているような町である以上、あっさりと信用するような者では、あっという間にカモにされて搾取が待っているような町でもある。
これぐらいできて当然と言えば当然なのかもしれない。
個人的には、僕はこういうオッサン嫌いじゃない。
なんかこう、色々と酸いも甘いも噛み分けて生きてきた大人の男って感じで、なんならちょっと羨ましいよ、その感じ。
まあゴリマッチョハゲっていう属性は御免被りたいところではあるけれど。
「んで、ソウ。おまえさんとルシィの関係は?」
「ルシィ」
「大丈夫です! ガルツさんは信用できますから!」
「おう、ありがとよ。口は堅い方だぜ?」
「それに、腕もあるので安心です!」
ルシィ節だね。
どうも物理的に腕が存在しているという訳ではなくて、それなりに腕が立つという意味で言いたかったらしい。
相変わらずルシィの言葉に言語解析ミスを疑いたくなる気分になってくる。
一方で、ガルツさんの方は真剣な表情を浮かべている。
どうやら彼もルシィ節を理解しているのか、意味を察したようであった。
「んな話になるってこたぁ、なんだ。厄介事に巻き込まれたか?」
「はい!」
「元気に肯定するようなもんじゃあねぇんだがなぁ……。ま、詳しく聞かせてもらう前に、ちょいと戸締まりさせてくれや」
カウンターの横から出てきたガルツさんが店の扉を閉め、鍵をかける。
そんな彼の動作に合わせて、僅かに周囲の魔力が動いたように思える。
僕がこれまで見てきた限り、魔導具は起動時に刻まれている魔法陣が僅かに発光するという特徴を有している。
おそらくは刻んだ魔法陣に魔力が流れ、魔法を構成、発動させるという手順を踏んでいるが故のものだろう。
あの扉、そういう光が見えないように隠蔽しているというところか。
扉に魔法陣が浮かび上がったりはしていないし、一見して変化はないようにも思える。
常人であれば魔導具であることには気付けないだろうな。
ただまあ、知覚領域内でそんな変化が生まれれば僕には感じ取れてしまう。
「その扉も魔導具なんだね」
「……おい、マジか」
「あるじさまのことなので、間違いなく気付いたんだと思います!」
「……はぁ……ったく。まあいい。座ってくれ、飲み物ぐらいは出してやる」
何やら疲れた様子でカウンターの奥へと引っ込んでこちらに背を向けて飲み物を用意してくれるガルツさんを他所に、僕とルシィは並んで丸椅子に腰掛けた。
改めて商品棚を見やる。
やっぱりこのお店、取り扱っているのは魔法薬とか魔導具とか、そういう類を取り扱っているらしい。
あんなゴリマッチョがいるんだから、どっちかっていうと鍛冶屋とかそういう系を取り扱っている方が似合いそうなのに。
「――意外か? 俺みてぇのがこんな店にいるなんて」
「まあ、意外と言えば意外かな」
「似合わないです!」
「うるっせぇぞ、ルシィ! ――いや、まあ俺も最初はそう思っていたもんだがなぁ。結婚を機に冒険者を引退して、今じゃ嫁の店の店員っつーわけよ」
「嫁?」
「おうよ!」
「似合わないです!」
「……テメェは叩き出されてぇのか……?」
さすがにルシィの連続失礼発言に青筋を立てつつも、ガルツさんが僕とルシィの前に紅茶を置いてくれた。
花柄のティーカップで、取っ手の付け根部分にピンクのリボンがついているかのようなデザインの、実にファンシーなティーカップである。
……これもう絶対わざと似合わないのチョイスしてるでしょ。
振り切った方が面白い、を地で行くヤツじゃん。
ルシィなんてティーカップは初見だったのか、それに気が付いて「ぷくくくっ、ぷひぃぁー」なんて変な笑い声漏らしてるし。
「――で、色々聞かせてもらっても?」
「僕とルシィの関係と、ここに来た理由、だね」
「おう」
ルシィは、笑いっぱなしで使い物にならない。
まあこうして僕に会話の主導権を渡していることも考えると、ガルツさんに対しては事情を話すべきだと考えているのだろう。
そもそももしも僕に会話の主導権を握らせたくないのなら、最初から自分だけで魔石を受け取って売りに来るという選択を取っていただろうし。
もっとも、実は何も考えていないなんていう可能性もない訳ではないのだけれど……なんとなくそういう訳ではないだろうという確信が僕にはある。
渡された紅茶を一口飲み、改めて僕はガルツさんへと顔を向けた。
「簡単に言えば、僕が『闇烏』の傘下である『梟』の隠し拠点を見つけてね。なんか面白いものあるかなって探検してて、そこでルシィを見つけたって感じだよ」
「……は?」
「ついでに言うと、なんだっけ、バンダナ巻いた『闇烏』のなんとかって自称幹部も殺して、ここに来た感じ」
「…………は? ……はぁ? え、いや、は? 待て、待ってくれ……。え? 『闇烏』のバンダナ巻いた幹部……――まさか〝無音〟のルクトか!? はぁ!? 誰が!?」
「僕が」
「……おい、マジか? ルシィ、冗談だろ?」
「あるじさまの圧勝です! 一発も攻撃受けずに完全勝利です!」
なにそれ、〝無音〟?
通り名的なそういうサムシングな感じだろうか。
そういうのが当たり前にある文化だったりするのかな。
やだなぁ、僕そういうのつけられたくないんだけど。
「……言っとくけど、俺ぁ匿ってやれねぇぞ? 巻き込まれるのは御免だぜ?」
「別にそんなものを依頼するつもりはないよ。というか、ここに来たのは魔石を買い取ってほしくて来ただけだからね」
「まあそんぐらいなら問題ねぇが……はあ、マジか……。いや、悪いが聞かなかったことにさせてくれや。今は裏の連中が荒れてるからな。巻き込まれたくねぇ」
「裏の連中が荒れてる? 何かあったの?」
「俺も詳しくは知らねぇよ。ただ、何かとドンパチやり合ってるみてぇでな。南の歓楽街もかなりピリピリしてるって話だぜ。ま、とりあえず魔石を出してくれ。査定するぜ」
南の歓楽街、ね。
となると、武闘派であるらしい『神狼』より、『夜光蛇』の方が関係してるっぽい感じなのかな。
情報収集がてらに一回様子を見に行ってもいいかもしれない。
積極的に動くのはダンジョンに入って解放段階を上げてからの行動にはなるけれど、情報収集と状況確認は先んじて進めておきたいところではあるし。
今後の行動を整理しつつ、カウンターの空いているスペースに影を伸ばして、魔石をジャラジャラと出していく。
「大量にあるな……。しかも、やたら品質のいい魔石が多いじゃねぇか」
「少し安めに買い取ってくれていいよ。ただ、ついでに情報屋みたいな人とかいたりしたら教えてくれない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます