土俵の妖精

汐留ライス

第1話

 両国国技館の地下にヤキトリの工場があるって話、わりと有名だと思うんですよ。


 でもあの工場って、地下1階なんですよね。じゃあ地下2階には何があるんだって、皆さん気になりません? なりますよね?


 アレね、土俵があるんですよ。


 なんであれがそんなこと知ってるかっていうと、工場で働いてたことがあるんですよ。時給160円で。いくらなんでも安すぎだろって、今考えたら思うんですけど。


 でね、従業員の出入口からロッカーまで行く通路の途中に、『絶対に開けるな』って貼り紙してあるドアがあるんです。もちろん開けませんけど、やっぱり気になるじゃないですか。それで気になるなあって思いながら、毎日素通りしてたんですよ。


 でもある日のこと、その日はちょうど九州場所の途中で、力士や相撲協会の人たちはみんな両国にいなかったんですね。


 おれがいつものように工場で働いて、両国から総武線で帰ろうとしたんですけど、改札を通る寸前でロッカーに財布を忘れたのに気付いて、危ない危ないって急いで取りに戻ったんです。そしたら! 通路の絶対に開けちゃいけないはずのドアが、半開きになってるじゃないですか。


 で、おれも考えまして。開けちゃいけないんだから、そりゃ入ってもいけないワケですよ。けどこのチャンスを逃したら、次なんてたぶん二度と来ないじゃないですか。それに、おれ開けてないし。


 そんなワケで、見つからないようにドアの隙間から、そーっと中を覗いてみたんですよ。

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