第11話 ひとをつくる。
「人間を出力する?」
源一郎は素直に驚いてみせた。
馨は、時折興味ありげに耳を傾けるが、積極的に話に加わろうとはしない。
ここでの話は源一郎にまかせ、周辺警戒に徹しようという態度だった。
「そう。人間を出力するの。素材も人間だけどね。
水35L、炭素20㎏、アンモニア4L……、みたいな素材で作るのはさすがに無理らしく。だから、正確には人間をベースに作り変える、という方が正しいかも」
「そんなことができるのか?」
「あんたたち、何をされたの?」
源一郎の反応に、弥生はストレートに問い返してきた。
源一郎は言い淀む。
「見た目通りじゃないんでしょ?」
その言葉に腹をくくる。
「ああ。少し前までは男だった。このイカれた迷宮で目覚めるまではね」
「気づいたら女の子だったの?」
「ああ。そういう感じだ。一度死んだらしい。甦ったらこうなった」
「へー。そうなんだ。死んじゃってたって本当なの? 息があるうちに素材にされたのかも、だけど。どっちにしろ、作り変えられたんだね」
「そうなんだろうな」
そんな機械があるなら、今の状況にも説明はつく。
そんな機械があるなら、だが。
いや、あるのだろう。そうでないと、今の自分に説明がつかない。
「それ、使えばもう一度男に戻れるんですかね?」
馨が言った。
「あ。瀬名ちゃんもそうなの?」
「そうですよ」
「え、こんな可愛いのに二人とも中身は男なの?」
「ああ。男だ」
源一郎は答える。
「戻れるかどうか、というのは機械さえあればってことだろうが、こういう地獄を作り出す輩に、もう一度生命を預けるっていうのはな」
「そうですね。じゃあ、ここのゴブリンどももそれで作られたんですかね」
「そうじゃないのか。多分」
源一郎は言って気づいた。
馨も同じことに気づいたようだ。
「僕たちは、人間を殺してきたんですね」
「ああ。多分、元は人間だったんだろう」
思えば、ホブゴブリンは、明らかに喧嘩慣れしていた。
おそらくは、そういう人間が元になったのだろう。
「だが、まあ、殺してやるのが幸せだろう」
「そうですね。あの状態で生き長らえたくはないてすね、僕は」
馨も賛同する。
「藤堂さん」
「ああ、その機械もついでにぶっ壊そう」
「できますかね?」
「このお姉ちゃんがいろいろ知ってそうだからな」
「私は壊す前に、その機械のデータが欲しいんだけど」
「生命救ってやったろ」
その言葉に弥生は一瞬黙る。
「この後、脱出するまで面倒見てくれる?」
生命と秤にかけたらしい。
「ああ、最後まで面倒見てやるよ」
源一郎は答えた。
「で、立てるか?」
「何とか……」
弥生は身体を起こす。その動きは弱々しい。
だが、動けないことはなさそうだった。
上にはカーディガンを直接羽織り、もう一枚をスカート代わりに腰に巻く。
「こいつを渡しておく」
源一郎がナイフを一本手渡した。
「いざとなったら使え」
「ありがとう」
「良し、行くぞ。馨はしんがり頼む」
「了解」
そのタイミングで弥生は源一郎に顔を寄せた。
「この隣の部屋に、あいつらの食料を搬入する場所があるはず」
小声でそう囁いた。
「その情報、助かる」
源一郎はそう返答して扉を開けた。
その部屋にはゴブリンはいなかった。
腐った肉の匂いが充満していた。
「臭えな」
たしかに食事の場所らしい。
奥の方に骨の山が見えた。
部屋の隅の、浴槽か手洗い場みたいな場所に水が流れていた。
「あれは?」
見渡すと壁にいくつか隙間の線らしきものが見える。隠してはあるが、一部がシャッターのようになっている。そして、その脇に小さなドアのような隙間も見える。
「隠し扉っぽいものがある。調べてくれ」
源一郎は弥生に指示を出す。それを受けて、弥生は壁に向かって動いた。
「藤堂さん! 来た!」
馨は扉の向こうで手斧を振りかぶっているゴブリンを見つけた。
馨はSFP9SKを構え、引き金を引く。
先頭は倒れたが、もう一体、大きく振りかぶっていた。
投げられた。
同時にゴブリンが一体、手斧を低く構えて飛び出してきた。
ゴブリンたちが連携して攻撃してきていた。
馨は、その動きに舌を巻く。
―こいつら、成長してる―
頭の片隅でそう思考しつつ、右手の手斧で投げられた手斧を弾きつつ、左手のSFP9SKで飛び出してきたゴブリンを狙い撃つ。
額を抜かれたゴブリンが倒れるところに、もう一体。
「もらうぜ!」
源一郎の日本刀が一閃して、首が飛んだ。
「ちったあ、戦い方を学んできたみたいだが、まだまだだな」
源一郎はニヤリと笑って、手招きする。
「いいぜ、死にたいヤツからかかってきな!」
ゴブリンが飛び出してくる。
扉の広さの関係で一人ずつ。
先頭のゴブリンが源一郎の日本刀で首を飛ばされると同時に、馨が後背に続くゴブリンを撃ち倒していく。
弥生は背後の喧騒に焦りつつ、扉に向かう。
そして、扉の脇に、岩に模した小さなパネルを見つけた。開くとそこにはテンキー。
そして、パネルの裏に油性のマジックペンらしきもので書かれた「2839」という数列。
罠ではないと信じた。
テンキーに2839と打ち込む。
電子音とともに、ロックの外れる音がした。
「藤堂! 瀬名!」
名前だけ叫んで、扉を開ける。
その向こうは。
きちんと整理された倉庫だった。
巨大な冷蔵庫といくつかの操作パネル。
そして、二人の白衣を着た作業員。
弥生は、驚いてこちらを見る二人に駆け寄る。
ここが勝負所。
そう信じて、手前の作業員の胸にナイフを突き立てた。
もう一人がロッカーに走っていくのが見えた。
ロッカーを開くと、そこにはポンプアクションのショットガン。
作業員がそれを手にとって構えると同時に轟音が部屋の中に木霊する。
作業員の頭が吹き飛んだ。
弥生が振り返ると、源一郎がM500を構えていた。
その背後で馨がSFP9SKを連射しながら入ってくる。
そのまま扉を閉める。
ドンドンと扉を叩く音がする。
馨は背中で扉を押さえながら叫ぶ。
「ロックを!」
弥生は慌てて操作パネルにしがみつき、ドア、もしくはロックと書いてあるボタンを探す。
そして、それらしいボタンを叩くと、電子音とともにドアにロックのかかる音がした。
「出られたな」
源一郎は笑った。
すると、部屋の中のスピーカーがいきなり叫び始めた。
「被験体が脱走した。繰り返す。被験体が脱走した。被験体は武装している。警備員は3Fの飼料倉庫へ向かえ。研究者はマニュアルに従い避難を開始すること」
館内放送が叫んでいた。
「さて、もう一暴れと行くか」
「そうですね」
馨も凶暴な笑みを見せた。
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