TSした武闘派ヤクザと警官が、ゴブリンだらけのダンジョンを脱出するお話。

阿月

第1話 いきなり目覚めたのは「最初の部屋」。

 ふと目覚めると、そこは見知らぬ天井だった。

 藤堂源一郎は寝転がっていた身体を起こす。

 簡素なベッドが二つとテーブルが一つ。

 壁は石造り。

 ドアは二つ。デカいがっちりした重たそうな木と鉄の組み合わせのドアは出入口だろう。腰の部分だけを隠すようになっている簡素なドアはトイレか? そして、窓はなかった。

 牢獄か? もし牢獄だとしたら、とても古くさいことだけはたしかだった。

 源一郎は訝しむ。

 実際、ドアではなく、鉄格子がはまっていれば、牢獄と言ってもかまわないような場所だった。



 ベッドには人が寝ていた。

 女だった。服は着ていない。

 枕の脇に、畳んだ服が置いてある。

 若い。若いというか、小娘で通る年齢だ。


 そしてテーブルには、武器が置いてあった。

 サブマシンガンに拳銃。そして刀。

 弾薬の箱まで置いてある。

 そのうち、拳銃と刀は見慣れた物だった。

 源一郎が愛用が愛用していた日本刀、三河守国重、二尺三寸。そして拳銃はS&W M500、4インチモデル。50口径の弾丸を撃ち出す世界最強の拳銃。


「目が覚めたようね」

 女の声がした。

 源一郎が声の方を振り向くと、中空にモニターのような画像が浮かんでいた。

 実態はない。

 画像だけが浮いていた。

 そのモニターの中には、一人の女。

 スーツの上から白衣を着ていた。

 まあまあ美人と言っていいと思う。

 それが源一郎の感想だった。

「藤堂源一郎。東日本最大の暴力団である極道組系最強の武闘派組織、阿修羅会の若頭。群馬県での龍王会との抗争の際、部下とともに警察の特殊部隊と戦闘になり、命を落とす。間違ってないかしら?」

「ああ、おおむねは間違ってはいないな」

「あら、おおむねなのね。何が間違っていたのかしら」

 女は笑う。

「俺はまだ、ここに生きているからさ」

「あら。それは失礼したわ。きちんとお伝えしていなかったわね。あなたは死んだの。一度ね」

「どういうことだ。なら、ここにいる俺は何だ。蘇ったということか」

「そうよ。藤堂源一郎さん。思い出して。警察の特殊部隊投入によって、次々に部下を失ったあなたは、最後に愛刀を振りかざして、突入したわ。銃弾で蜂の巣になったあなたは、それでも足を止めず、一人の警官の首に刀を突き通した。そして、その警官が最後の力を振り絞って撃った銃弾が心臓を貫き、そして死んだの」

 源一郎は言われて思い出していた。

 それは、高崎市のアーケード街にある阿修羅会の店でのことだった。

 龍王会との手打ち式のための打ち合わせを、と極道組の本部長らが訪ねてくることになっていた。

 だが、やってきたのは龍王会の武装集団だった。

 ハイエースで乗りつけるや否や、ロシア製のAK-47で武装した男たちは店の中で銃弾をバラ撒いた。

 結果、源一郎たちも応戦したことで、市街地での銃撃戦となった。

 龍王会の人間を撃ち倒したところで、警察の特殊部隊、SATの黒づくめの男たちが突入してきた。

 警察相手ということで、おとなしく両手を挙げた源一郎の部下たちが容赦なく撃ち倒されたとき、源一郎は怒りに駆られて、警察相手の戦闘を開始した。

 そして、女の言う通り、蜂の巣にされて、一人の警官と刺し違えて死んだのだ。

 死んだ。

 そう、思い出した。

 死んだはずだった。

「なぜ、生きている?」

 源一郎は思わず声に出した。

「私に感謝していただきたいのですけど」

「あんたが甦らせてくれたのか」

「ええ。その通りですわ」

「俺に何をやらせたい?」

 源一郎の言葉に、女は反応できなかった。

「どういうこと?」

「甦らせておいて、タダということはないだろう」

 タダで手に入るものなどない。ましてや電車で席を譲る程度のことではないのだ。

 何か思惑があるに違いない。

 源一郎は、そう判断していた。

「さすがね。もちろん思惑はあるわ。私は実験をしたいの」

「実験?」

「戦いなさい。そして、そこから生きて出られたら拾った生命はあなたのものよ」

「戦えばいいのか。ずいぶんと楽な条件だな。いや、楽じゃないってことだな」

「察しがいいわね。愛用の武器も用意したから、がんばってくださいね」

 そう言って笑う。

 源一郎はその微笑みに邪悪さを感じた。

 人の不幸を愉しむタイプの悪女だ。

「そこで寝たふりしている瀬名馨さんもいいかしら」

「わかった」

 ベッドの方から可愛い声がした。

 振り返るとベッドから裸の少女が身体を起こしていた。

「この『最初の部屋』を出たら、ゲームが始まるわ。せいぜい楽しんでね」

 その言葉を最後にモニターは消えた。

 武器が必要なゲーム、ということはこの先は血で血を洗う戦いが待っているということだ。

 あの、邪悪そうな女の企みなんて、ロクなもんじゃない。

 こんな年端もいかない女を守って生き抜けるのか。

 まあ、いい。

 やるしかない。

 源一郎は軽く決断した。

 源一郎はこういうタイミングでの決断が早い。

 決断が遅いと生命にかかわる。

 そんな人生を経由した故のことだった。

「なあ、お嬢さん。とりあえず服を着てくれや。守ってやるからさ」

「それはあんたもな」 

 馨は言葉を返した。

 源一郎は、その時始めて自分自身の姿を見た。

 たわわな乳房がそこにあった。

「何じゃあ! こりゃあ!」



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