Bパート

 レッスン漬けの日々が続いていたある日、プロデューサーの三上が紙包みを一人一人に渡した。中にと衣装が入っている。


「グループにはしっかりとしたコンセプトが必要だ。それにそれぞれがキャラを立てなければならない。着替えてみるんだ。これが君たちのコスチュームだ!」


 そう言われて私たちは着替えてみた。それは胸に大きな赤いリボンがついた白っぽいセーラー服と短いスカート。かつらはお団子のついたツインテール・・・まるでコスプレみたいだ。


「これって・・・セーラームー」


 私の言葉をすぐに三上が遮った。


「いや、違うぞ! 今までにない斬新なコンセプトのグループだ。これは妖精戦士ファアリーシスターズだ。歌とダンスで人々を救う。そして妖精名がある。君がフェアリーピクシーだ! そしてフェアリーシャナにフェアリーシルフ、フェアリーフローラ、フェアリーセイレーン。合言葉は『天に代わっておしおきよ!』だ」


 三上は得意げに言った。私は唖然としていた。これではパクリとしか言いようがない。


「これからは妖精名で呼び合うんだ。これで団結力は強まる。じゃあ、練習再開!」


 三上はレッスン場を出て行った。


「どうする? 美奈、いやシャナ」

「まあ、合わせるしかないわ。芸名だと思って」

「私はちょっと気に入っているの。セイレーンって何か偉くなった感じ」

「フローラはお花のことかな?」

「でもシルフってなんだろう?」


 それでも何か楽しそうだ。私はピクシーと呼ばれることになったが、違和感でいっぱいだ。


 そのコスチューム姿でレッスンしていると今度は飯山が来た。私たちのダンスを見てうなずいている。


「もう仕上がって来たみたいだな」

「本当ですか!」


 恵子、いやセイレーンがうれしそうに言った。


「ああ。これなら人前に出せる。だからもうすぐ移動するぞ。レッスンをもう少ししてから準備をしとくんだ」


 飯山はそう言って出て行った。


(もうすぐ動く。私たちをどこかに連れて行き、売り飛ばす気だろう。少し探ってみよう) 


 私はそう思った。


「ちょっとごめん! ちょっとトイレ」


 私は彼女たちにそう言ってレッスン場を出て行った。三上たちが集まる部屋は少し離れたところにある。私はそっとその部屋の前に来た。中の話し声が聞こえる。


「もう仕上がったな。コスチュームもよく似合っている」

「ああ、これで海外で売れる。コスプレの日本女性は高値がつく」

「よく考えたな」

「まあな。さて船が到着したようだ。顧客が待っている。これから連れて行くか」

「いや、まだだ。夜中の方がいいだろう。その方が人目につかない」


 三上たちはやはり人身売買をしていたのだ。この犯罪を未然に防がねばならない。私はブローチの無線機で班長に報告するため、そこを離れようとした。だがうっかりそのブローチを床に落としてしまった。


「コトン!」


 大きな音がした。それで三上たちが気づかれてしまった。


「誰だ!」


 ドアが開いて三上たちが飛び出してきた。そこには隠れる場所もなかった。


「おまえは! どうしてここにいる?」

「ええと・・・ちょっと聞きたいことがあって・・・」


 私は何とかごまかそうとしたが、三上は私に疑惑の目を剥けていた。


「話を聞いたな?」

「いえ、聞いてない・・・」


 だが小川が私の落としたブローチを拾ってしまった。彼が触っているうちに蓋が開いて機械の部分が露出した。


「これは小型無線機だ!」


 小川がそう声を上げた。


「おまえはサツだな!」


 三上が私をつかまえようとした。私はその手をつかんでひねり上げた。


「警察よ! もう逃げられないわ! おとなしくしなさい!」


 だが私の背後から飯山がキックしてきた。


「うっ!」


 私はその場に倒れた。そこを飯山と小川に両側から腕を取られて抱えられてしまった。


「放しなさい! 放しなさい!」


 私は暴れたが押さえつけてもう身動きできない。三上は不敵な笑みを浮かべ、私の顎をつかんで言った。


「こんなきれいな顔をしているのにサツとはな。惜しいがこいつはここにおいていく!」


 私は粘着テープで口をふさがれ、体を縛られて物置に入れられた。そしてしばらくして外で彼女たちの悲鳴が聞こえた。


「きゃあ! 何にするの!」

「助けて!」

「やめて!」


 彼女たちが三上たちに拘束されているようだ。


「うるさい! 静かにしないと叩き殺すぞ! おとなしく来るんだ!」


 彼女たちは連れていかれてしまった。多分、このまま外国で売り飛ばされてしまうだろう。何とかここから脱出して班長達に知らせなければ・・・私は縛られたテープを何とか引きちぎろうとするがうまくいかない。気ばかりが焦る・・・。

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