第8話 魔王 VS 近衞兵士隊長
「クックック……アーッハッハッハ! さあ、かかってこい! 誰でもいいぞ! この俺を殺してみろ! さあ、どうした! 臆病者ども!」
俺は高らかに笑いながら、周囲の奴らを挑発した。
ロザリー、お前との約束は守れそうにない。やはり俺は魔族の王、人間どもを殺すことこそ生きがい!
俺の挑発を受けて、周囲からは怒号が飛び交った。
『ふざけやがって! この俺があの銀髪小僧をぶっ殺してやる!』
『俺だ! 俺が野郎を殺してやる!』
地鳴りにも似た怒号を、俺は心地よく聞いていた。
今日はたくさん人を殺せそうだ……いい気持ちだ……実にいい気持ちだ。
今にも新兵希望者達が全員舞台に上ってこようとするのを、俺は余裕の眼差しで眺めていた。
その時、一際大きな、良く通る声で全員を制する者がいた。
「皆の者!! 静まれい!!」
その声が響き渡った途端、全員の動きがピタリと止まった。
俺が声の方に目を向けると、先ほどまで番号を呼んでいた水色の長髪男が仁王立ちしていた。
「ここは神聖なゼント城の兵士を選抜する場である!! ゼント城の兵士には、すべからく品位、礼節が求められる!! それが理解できないものは、即刻この場から立ち去れ!!」
その言葉を聞いて、会場は静まりかえった。
「よし!! お前らはおとなしくその場で見ていろ!! 此奴の相手は、この近衛兵士隊長であるドーリアがする!! ……よろしいですか? イリア様?」
台座にふんぞり返っているピンク色の髪の女は、笑いながらドーリアの提案を受け入れた。
「いいだろう、ドーリアよ……近衞兵士隊長たる実力をわたしに見せるがよい……だが、油断するなよ……奴は手強いぞ……そして、負けは許さん」
ドーリアはイリアの方に向き直り、片膝をついて忠誠の姿勢を取りながら叫んだ。
「はっ!! 仰せのままに!!」
◆◇◆
ドーリアは舞台へと上がり、俺と対峙した。
「カインド……とか言ったな。確かにお前の言うとおり、
俺は豪華な鎧に身を包んだドーリアとかいう男をじろじろ眺めながら、質問した。
「お前はこの場で一番強いのか?」
「そうだ……と言いたいところだが、一番強いのはあの台座にいらっしゃるイリア様だ。わたしなど足元にも及ばん」
「俺は『一番強い奴と戦わせろ』と言ったはずだが?」
「イリア様のお手を煩わせるわけにはいかん。お前の相手はわたしがする。異存は認めん」
「チッ! ……まあ、いい。俺のリハビリ程度にはなるだろう……ではお前から殺してやる」
「では、いくぞ! ハアアアアッ! 伸びよ! 『
奴の剣が青白い光を放った。
ほう……『
「喰らえ! 聖なる剣を!」
奴は一瞬で俺の懐に飛び込んできた。
奴が上段から振り下ろした剣を、俺は剣で受け止めた。
バキイイイイインッ!
俺の剣は折れ、剣先がカラカラと音を立てて転がっていく。
「早くも勝負あったな。剣がなくては戦えまい……それとも他の剣を借りてまだ続けるか? それとも魔法を使うか?」
勝ち誇った顔をしているドーリアを見て、俺はこみ上げてくる笑いを隠すことができなかった。
「……クックックッ……ハッハッハッ……アーッハッハッハッハッ!」
「何が可笑しい!? 負けを認めろ! さもなければ本当にお前を斬るぞ!」
「『
俺は持っていた折れた剣に手を当てて呟いた。
「ハアアアア……伸びよ、『
俺の呟きと共に、手に持っていた折れた剣は、漆黒の剣へと姿を変えた。
「な、何だと……? 何だ、その剣は……?」
「そう驚くことはあるまい。貴様の剣と同じだ。ただし、こっちのは魔界版だがな。切られるとそこから亡者の魂が乗り移るから、上手く躱せよ」
俺は奴の倍のスピードで懐に入り込み、下からすくい上げるように奴を斬りつけた。
「くっ!」
ドーリアは間一髪身を引き、俺の斬撃を躱した。
ほう……躱したか……そうこなくてはな……
俺はすくい上げた反動を利用して空中に飛び、回転しながら斬りつけ、奴の鎧を真っ二つに切り裂いた。
俺は上下左右、次々と奴を斬りつけていく。
奴の体は傷だらけになり、いたるところから血を流した。
「クックックッ……さあ、そろそろ聞こえてきただろう……亡者達の声が……」
「グアッ! グアアアッ! 何だ、この声は! やめろ! やめてくれ!」
奴の耳には、今亡者達の声が幻聴のように響いているはずだ。
『タスケテクレー……シニタクナイヨー……タスケテクレー……』
亡者の声にうなされたドーリアは完全に戦意を喪失し、その場に片膝をついた。
「つまらん……もう終わりか……もういい、飽きた。死ね」
俺が奴の首に剣を振り下ろそうとした瞬間、大声が響いた。
「止めい!! そこまでだ!!」
その言葉を聞いた俺は、ギリギリの所で刃を止めた。
(くそっ! 今のは女の声……おかげで殺すことができなかった……やはり今の俺は女に弱いらしい……)
俺は女の声の方を向き、問いただした。
「何故、止めた? さっきから偉そうにふんぞり返っているが、お前がイリアか?」
「そうだ。今貴様が半殺しにしたドーリアの上官だ」
「それなら、貴様も舞台に上がれ。こいつと同じ目に遭わせてやる」
「ハーッハッハッハッハッ! 気に入ったぞ! カインドとやら! お前とはじっくり戦いたい。二人っきりで楽しみながらな! 今からわたしの部屋へ来い!」
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