人間に転生した魔王、勇者に復讐を誓う〜勇者を倒しに行ったら、娘が超絶美人で一目惚れしてしまいました〜
ゴリビス
第1話 魔王、人間に転生する
「お、おのれ、勇者アレクよ……」
「もう、貴様はお終いだ! 魔王ダムアス! 覚悟しろ!」
勇者の叫び声が耳に障る。
勇者も傷だらけではないか……あと一息、あと一息で奴を倒せるのに……
俺は最後の力を振り絞り、全身の魔力を右手の剣に集中させた。
「なめるなっ! 人間ごときがっ! 死ぬがいい!」
俺は全力で剣を振り下ろしたが、紙一重で勇者にかわされた。
「でやあああっ!」
金色の髪をなびかせ、青色の目に炎を宿しながら懐に飛び込んできた勇者は、俺の胸を剣で突き刺した。
「ぐあああっ!!」
熱い! 体が焼けるように熱い!
不覚! 魔族の王たるこの俺が、まさか人間ごときに討ち果たされるとは……
魔族再興という我が夢が……すまぬ、我が配下達よ……
「み、見事だ……勇者アレクよ……だが、俺は必ず復活する! そして貴様に復讐する! その時まで首を洗って待っているがいい! ギャアアアッ!」
俺は捨てゼリフと断末魔を残し、息絶えた。
◆◇◆
「ねえ、本当にこいつを生まれ変わらせるの?」
天使の一人が、黒いモヤのような球体を抱えながら、曇った表情でもう一人の天使に尋ねた。
「ええ、そうよ。どんな生物にも、等しく転生の権利はあるわ。例えそれが魔族の王でもね。普通の生物が死んでもいちいち儀式なんて行なわないんだけど、何せ今回は魔王だから、女神様が直々に転生の儀式を行うのよ。まったく面倒だわ」
そう答えた天使の表情も曇っていた。
「何に生まれ変わるのかしら?」
「さあ? それは分からないわ。女神様の力も及ばないところよ。虫か、獣か、ひょっとしたら人間かもね」
「えっ!? 人間!? こいつは元魔王よ! 万が一人間に生まれ変わったら、また大暴れするかも……」
「大丈夫よ。生まれ変わった生き物には前世の能力と記憶が無いはずだから」
「でも……ひょっとして、ってことも……人間に生まれ変わらなければいいんだけど……」
「私達が気にしても仕方のないことよ。すべてはこの魂の運次第ね。さあ、おしゃべりはこのくらいにして、『転生の儀式』の準備に取り掛かるわよ」
「は〜い。でも、やっぱり不安だなぁ……」
天使達は、黒い球体となった魔王ダムアスの魂を持って、儀式の間へと羽ばたいていった。
◆◇◆
「お帰りなさい、天使達よ。さて、魔王ダムアスの魂は持って帰りましたか?」
「「はい、女神様。こちらに」」
「よろしい。では早速『転生の儀式』を始めましょう。この台座の上に魂を置きなさい」
「「はい。女神様」」
天使達は、丁寧に台座の上に魔王ダムアスの魂を置いた。
「よろしい。では始めます」
女神は目を閉じ、小さな声で呟き始めた。
「死せる魂よ……新たな生命に生まれ変わるがいい……リ・シューク・エルト・タミラ……はあああっ!」
女神の両手からまばゆい光が放たれた瞬間、魔王ダムアスの魂は台座の上から消え、代わりに人間の赤子がスヤスヤと眠っていた。
「はあっ……はあっ……」
荒い息をついている女神に、天使達が駆け寄った。
「「大丈夫ですか、女神様!?」」
「私なら大丈夫です……それよりも、まさか人間に生まれ変わるとは……これも運命なのでしょうか……」
女神は、信じられないといった表情を浮かべながら、あどけない赤子の顔を見つめた。
「本当に大丈夫なんでしょうか、女神様……魔王が再誕した、なんてことにはならないでしょうか……」
天使の不安そうな言葉を聞き、女神は少し考えこみ、やがて口を開いた。
「そうですね……念の為に別の封印も施しましょう」
そう言って、女神は赤子のへそに手をあてた。
「ハァッ!」
かけ声と共に女神の手が光り、赤子のへそに小さな魔法陣がついた。
「これでいいでしょう……この子に『慈愛の心』を封じ込めました。これで、人を慈しみ愛することを覚えたはずです……あとはこの子を人間界に送りこみます」
女神が目を閉じ念じると、赤子はフワフワと宙に浮いた。
「この子が優しい両親の元で、優しい人間になってくれることを祈ります……ハァッ!」
女神が叫ぶと同時に、赤子は光を放って消えた。
「ふうっ……これでよしっ、と……」
一息ついた女神の元に天使達がそろって声をかけた。
「「お疲れ様でした、女神様」」
「ありがとう、お前達……我々の役目は終わりました。あとは、共に願いましょう……あの子が健やかに育つこと、そして魔王亡き今、平和な世界が続くことを……」
◆◇◆
「シスター・メディ! 門の所で赤ちゃんが泣いてるよ! 早く来て!」
「まあまあ、本当に?」
子供が呼ぶ声を聞き、シスター・メディが慌てて門の所まで走ると、籠の中で一人の赤子が泣いていた。
籠の中には一枚の紙が入っていた。
『私達にはお金がなくて育てられません。大事に育ててあげてください。名前はカインドです。よろしくお願いします』
「まあ、可哀想に……捨てられてしまったのね、あなた……名前だけつけて捨てるなんて、なんて勝手な親なのかしら……」
「オンギャッ! ホンギャッ!」
「よしよし、大丈夫よ。あら? あなた、お腹に変な印があるわね……まあ、いいわ。さあカインドちゃん、中に入ってミルクを飲みましょうね」
シスターはカインドを抱き抱え、『セント・クライアン孤児院』と記された建物の中に入っていった。
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