第2話 相談ダイアル

検索:希死念慮 意味

結果:こころの相談ダイアル


 電話をかけたところで、結局誰も出ないじゃん。出てくれたところで何もない。俺はなにを聞いてほしいんだろう。漠然とした感情を説明するのが一番難しいのに。


 文化祭倉庫から、縄を持ち出したことがある。もやい結びをほどこされた縄の輪っかをみていると、どうしてもやりたいことができた。縄に首を引っ掛けた。ただぼうっと上を見上げるだけで、足を床から離すまではしなかった。その時にこころの相談ダイアルに電話をかけたけれども、ダメだった。普段自分から一番離れたところにいる自分のことを知ってる人と話をしたかった。思いついたのが先生だった。知ってる電話番号は一人だけだ。なんで登録したのかは覚えてないけれど、期待を込めて電話をかけた。


___おかけになった電話は…


 出ないから、もういいや。その時、スマホが着信を受けた。


『もしもし、○○○?』


 懐かしい顧問の先生だった。2年ほどしか関わっていなかったけれど、とてもよくしてくれた先生。先生は全部員を下の名前で呼んでた。懐かしい呼びかけに、思わず涙が不思議と溢れてきた。ごめんなさい先生、突然。俺、おれ、と言葉を出そうとすればするほど、声はどんどん出なくなる。鼻で息を吸って、口で吐いて。ゆっくり、ゆっくり。低い声だけれども、優しさに満ちた相槌の「うん」の言葉が一定間隔で聞こえてくる。その度にひとしきりスマホ越しで止まらない吃逆をして、垂れてくる水っぽい洟を左手の指先で拭って、涙は手のひらで拭っていた。何十分も長い間、先生は元部員の泣き声に付き合ってくださった。


「ごめんなさい、もう大丈夫です」


 ようやく声を出せた時には希死念慮はすっかり落ち着いて、もう恥ずかしさで切ってしまった。迷惑電話かと思われたかもしれない。数日後に気付いたことだけども、メールに一件届いていたものがある。


『泣き言にはいつでも付き合います』


 俺の相談ダイアルは、昔の顧問の電話番号になっている。あの検索結果は書き換えておいてほしい。

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