第17話 試し ♂

 詩桜里から餅野の事を聞き安堵した。


 どうやら彼女は最後まで転ばなかったようだ。


 完成しつつある『ヴァリアント』と名付けられた新型量子コンピュータが、詩桜里が結婚するまでに浮気をする確率を十二パーセントと算出した。

 ちなみに浮気の記憶がある詩桜里を想定した場合は驚異の八十八パーセントになる。


 個人的にはここまで差異が出るとは思っていなかった。なので、ここまで来ると今の詩桜里はあの頃と別人と言えるかもしれない。


 だから僕は目の前で辛そうに報告してきた詩桜里に真実を告げる。


「ありがとう言ってくれて。だから僕も正直に言うよ。あの男は僕が雇って、君に近付くように依頼した」


 情けない事に僕は最後まで確率を信じきれなかった。算出された十二パーセントに怯えたのだ。


「そう。そうだったの、良かった」


 思いがけない詩桜里の言葉。

 自分が試されたのにも関わらず彼女は安堵した表情を見せた。


「どうして怒らないの? 僕は信用しきれず試すような事をしたんだよ」

 

「だって私が信用に足りないのは仕方ないもの。一度間違いを犯した私はきっとこの先も百パーセント宏人君に信じてもらえることは無いと思う」


『そんな事無い』とは言えなかった。


「だから私は常に努力し続けるだけ、百は無理でもなるべくそれに近付けるように、自分自身の行動で示していかないと行けないから。だからこそ今回はひとつ信頼を示せて良かったと思ってるの」


「そう。詩桜里は本当に変わったんだね」


「そう思ってくれてるのなら嬉しいよ宏人君」


 そう言って嬉しそうに笑う。

 あの頃とは違うどこか力強さも感じられる笑顔。


 良くも悪くも人は変わって行く、


 人は弱いから流されて間違える。

 人は強いから踏みとどまって前に進める。


 詩桜里は流されたけど、間違いに気付き踏みとどまって僕のところまで来てくれた。


 その努力が全て偽りだとは思わない。


 じゃあ僕はその努力に対してどう向き合えばいいのだろう。

 

 今回のような手段で詩桜里を試し続けても、きっと結果は変わらない。


 だから僕も覚悟を決める必要があるのだろう。


 でなければ今後の結婚生活なんて上手くいくはずも無い。


 赤の他人同士が結婚して共に歩んで行く。

 ただでさえ難しい道のりだ。


 僕達はただでさえ一回失敗している。


 その事実を受け入れて前に進まないと行けない。

 だから詩桜里だけじゃなく、僕自身も強くならないと行けない。


 僕自身の夢を実現させる為にも、もう詩桜里は無くてはならない存在だから。


 僕らはその日、お互いの気持ちを再確認して、共に歩む事を誓い合った。


 

 

 

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