第17話

情景が浮かび上がる……



町の集会場のような施設に設けられた祭壇。



傍らには灯守りをする為に佇む――――



「ユイコ…」



そこには、遺影を睨むような悲痛な表情で凝視して涙を流すユイコの姿があった。



「ハクラの妹、ユイコやってんな。」



ユイコが魄乱に入って以来、玄さんのスタジオに顔を出すようになってから気付いたのかも知れない。


キヨちゃんはさほど驚くでもなく言葉を溢した。



「その人、兄貴らめっちゃ可愛がってたみたいやからな。」



(兄貴"ら"、て?)



脳裏に浮かんだままの通夜の光景、



その視点を変えると玄さん、その隣には――――




「あぁ、ヒルコ君!」



その時、ハコのブッキングマネージャーがこちらに来たヒルコに声を掛けた。



それに気付いたのか、気を利かせてそれまでの話題をなかったかのようにいつの間にかキヨちゃんはのっそり腰を上げて他のバンドマン達と雑談を始めていた。



ヒルコは精算と打ち合わせの為にブッキングマネージャーに連れられて奥の事務所へと向かう。



「……。」



手持ちぶさたに缶ビールを手にとったけれど、既にカラになっていた事に今更気付いた俺はその手を引っ込めた。




(……檜山君。)



浮かんだ情景の中には檜山君が居た。




(でも、何で……?)



いつだったか、岡本が言ってた不良軍団の何代目かが檜山君と瓜二つだった事を思い出した。




(いや、でもあれは違う。檜山君本人だ。)



「おい、打ち上げの手配済んだぞ?」



色々と考えを廻らせているとキバがボサッとしていた俺に声を掛けてきた。



「ああ、ありがとう。」



返事をした拍子に今までの思考がふつりと途絶える。



(何、考えてたんだっけ。)



不意に切り替わった思考は既に打ち上げの事に向いてしまって後戻りすることは無かった。



良くも悪くも俺は切り替えが早い。




「夜神、あの人も呼ぶ気か?」



(誰の事だ?)



低い声で尋ねたキバの目線の先には佇む一人の男が居た。



遠巻きに誰かと喋っている事はわかる、



だけどその表情は見えない。



「さぁ。俺呼んだ覚えないし。」



「……。」



キバが何かを言いた気だったけど「そうか。」とだけ言って

準備があるからと一足先にR.h.Rへ向かって行った。

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