第9話

キヨカとシオンさんたちは最前列でライブ観賞をしていた。


キヨカ……



彼女はあの聖夜という男に執着している。



ロムくんたちのファンクラブを作る前は聖夜のバンドの追っかけだったとユイちゃんが言っていた。



ただのファンというよりどうも異常な執着があるように感じた。



シオンさんが狙われているとすればおそらくそれ絡みだと思う。



聖夜といいキヨカといい、心の歪んでしまった人達の行動は全く予測がつかない。



なぜ執拗にロムくんたちに嫌がらせをするのかも。



当のロムくんは全く気にしていない風だけど。



今も一切のことを忘れたかのようにライブに没頭しているみたいだった。



だけど……



(いつまでこの姿勢なんだろう……)



親鳥が雛を守るように、わたしはロムくんの腕の中にすっぽり収まったままだった。



(ロムくんてば!)



わたしごとゆらゆら揺れながら心地良さそうにするロムくんの揺らぎに逆らって少し抗議の眼差しを向ける。



「ん?どうかした?」


何も気にしていないロムくんは、時々天然なんじゃないかとわたしは思う。



「その……いつまでこの体勢?」



わたしの声はちゃんと聞こえているだろうけど

まるで一つの音としてしかとらえていないかのようにロムくんの意識はまだ同じように漂っている。



(もう……)



一度陶酔してしまうとパターン化されてそれを繰り返す、


それはロムくんのひとつの性質みたいなものだと思うけど……


重く甘い、そして官能的な香りがわたしの頭までぼーっとさせてしまいそうになる。


ロムくんの香りは周りまで陶酔させてしまう程の力があるんじゃないか、てわたしは思う。



そんな香りと直に感じる熱に

今までの出来事もすっ飛んで酔ってしまいそうだ。



「……嫌か?」



ようやくわたしの言葉に反応して、耳元で低く囁く。



(嫌……じゃない。)



小さく頭を横に振ってロムくんの腕に手を添える。



(もう手遅れかも。)


すっかりわたしはロムくんに酔わされてしまったみたい。

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