第19話 正当防衛的な何かで
その主な仕事はというと、クソザコメンタルな某ランク1位をサポートすることなわけだが……それはあくまで裏の仕事であった。
ずいぶんと大っぴらにやっているが、いちおう裏の仕事だった。だって国民の皆様にとても説明しづらいし、当の本人にも知られたくないので。
というわけで表の仕事というものが存在した。本日の業務はそれだった。普段はスーツな平岸は、久しぶりに作業着を着て予定の時刻を待っていた。
「平岸さん、そろそろ行きましょうか」
「はい」
「荷物は持ちましたよね」
「これでよろしいでしょうか」
「それです。ありがとうございます」
取っ手の付いた樹脂製のケースを平岸はストレージから取り出す。中身は水質検査キットだった。
「何に使うんだろうと思っていました」
「本業に使いますよ」
ケースにはホコリが積もっていた。しかし本業に使うらしい。
きっと大切な道具だから大切にしまっておいたのだろう、たぶん。そうに違いない、うん。普段は提携業者にぶん投げして検査結果を確認しているだけだが、とにかくヨシ。
「過去の記録を見ましたが、多少数値が変動するだけみたいですね」
「ええ。飲めるレベルだった水が飲めなくなるとか、そもそも水以外の何かになったとか、そういう急激な変化はありませんね。
ダンジョンが変異した場合は別のようですが、そういう時は検査するまでもなく異常が分かります」
「検査も管理も手間ですし
「それをするには時間が経ちすぎていますね。ダンジョンが出現した直後ならともかく、今はボトル飲料とかお酒の原料とかにけっこう使われていますから」
「やたらありますよね、ダンジョン産のお水が原料のお酒」
などと会話している間に目的のダンジョンに到着した。ランク1位がホームにしているダンジョンだった。この中にも飲用として利用されている水源があるらしかった。
「では行きましょう、課長」
「はい…………えっ?」
「どうされました、課長」
「ええと、平岸さん、その……どうして突然フル武装のロードを?」
平岸は装備をロードしていた。そして課長の指摘した通り、それは明らかにフル武装だった。
ヘルメットはシールド付きだし、全身ハードプロテクター付きのアーマーだし、右手には警棒型のアームズ、左手には円形のシールドを装備していた。ほぼ暴徒鎮圧に向かう機動隊にしか見えなかった。
「? ダンジョンに入るなら当然かと」
平岸は首をかしげる。この上司は何を言っているのかと。
「護衛の冒険者がいるので我々はそこまでの用意は不要です。アーマーはともかく、アームズは過剰です」
「甘いです課長。甘すぎます。それでは課長ではなく加糖です。がっかりです課長。無糖だと思って飲んだら加糖だった時のコーヒーぐらいがっかりです」
「平岸さんって冗談を言われるんですね」
「ダンジョンでは何があるか分かりません。転移罠やイレギュラーエネミーはもちろん、暴漢などに遭わないとも限りません。護衛の冒険者が職務放棄する可能性もあります」
「いちおう護衛は雇いますけど、水源まではほとんど危険はありませんから……」
「……会ってしまうかもしれないではないですか、うっかり」
「な、何にですか?」
「決まっています。あのランク1位ですよ」
「……ええと」
「そうつまり、偶然会ってしまったら……何かの拍子に銃が暴発したり、警棒に当たってしまったり—— いえ、正当防衛的な何かで……」
「事務所に戻っていただいても……?」
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