第6話 初めてのおじさんのおうち


上司からたわいのないメールが届いた。

私にとっては希望の光でしかなかった。


″美味しいコーヒー淹れてくれませんか?

お礼にタルトあげます″


私は上司の家に向かった。

タクシーで15分だった。

教えてもらった住所でおりたらタワマンだった。

うーわ。金持ってるわ〜

まあ一人暮らしだし、当たり前か?

部長だしなあ。

とりあえず部屋番号と呼び出しボタンを押した。


「どうぞ」


上司の声と同時に、ドアが開いた。

コッ!コンシェルジュがいらっしゃる!!

「お帰りなさいませ」

って綺麗なお姉さんに言われて頭を下げてささっと通り過ぎた。

第一ゲートが開いたと思ったらまた鍵のかかったドアが立ちはだかった…。

二重ロックなのか。

同じように部屋番号と呼び出しボタンを押そうとしたら、エレベーターから降りた上司がきて第二ゲートが開いた。

ちょっと息が上がっている。

急いで来てくれたのかな。

目が赤く、腫れている私を見て、察したのか何も聞かずに

「おいで」

と言って、エレベーターに向かった。

おいでの破壊力…。

もう、イケオジのおいでほどファザコンに効く3文字ないんじゃないかな。


42階…まさかの最上階で降りて、上司の部屋に案内された。

同じ会社で勤めているというのに、世界が違うなあ、なんか。


「コーヒー淹れるね」


ここからだ。

私と上司が、私とおじさんに変わった日は。


この不思議で、甘美な時間は、ここから始まっていく。

誰にも満たせなかった大きい穴が、いとも簡単に埋められていくのだ。

まるでおじさんのために、空いていた穴のように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る