1-2

 2025年11月。


『全国高校サッカー選手権、神奈川予選もいよいよ最終局にさしかかりました! 強豪の今西聖稜高校と金星を挙げ続けるダークホースの川崎双葉学園との決勝戦! いよいよ明日、全国切符をかけキックオフ!』


 全国に王手をかけた川崎双葉学園。

 スポーツが決して盛んでないこの学校では、このニュースに多くの自学生たちが注目を集める。


「なんてたって、注目は岩間だろ。あんな細っこい体をしているってのに、まるで抜かれる気がしねぇ」

「それなっ。あいつがいるから勝ち進んでいるって言っても過言じゃないだろ」

「お。噂をしていれば、きたぞ」


 皆が注目する視線の先に、身長170ばかりとスポーツ選手としては小柄な男子学生が照れ臭そうに通学してくる。


「もっと堂々としてろよな」


 バシッと背中を叩か岩間光流いわまひかるはビクッと驚く。

 チームメイトでエースの小杉はケラケラと笑い、委縮する光流の頭をわさわさと触れる。


「相変わらず、お前って日常生活では小動物が強すぎるな!」

「だ、だってぇ。僕は内気な性格だってコーちゃんもわかってんだろ」


 小杉の下の名、功多こうたからコーちゃんと呼ぶ光流。


「ま、いいじゃん。それだけお前の活躍は皆から認められているってこった。決勝戦が終わった頃にはプロのスカウトでもかかってんじゃねぇの」

「え~、やめてよ。冗談でもドキドキするじゃんかぁ」

「冗談じゃない。お前はそれほど凄いんだって。それもまだ一年生なんだぜ? 来年にはお前に憧れた後輩たちが集って、いずれこの学校もサッカーの名門と呼ばれるかもしれねぇ。そうなれば、俺はかの強豪サッカーの礎のメンバーだったと鼻高々に言えるってもんだ」


 小杉の理想も含まれているが、後輩たちが集まることに対しては光流の期待も膨らみ、まんざらでもない表情になる。


「行こうな! 全国!」


 キラキラとした笑みを見せた小杉に乗せられ、光流も飛びっきりの笑顔で「うん!」と答えるのだった。


 だが――。

 決勝戦前日。

 光流は、トラック運転手の飲酒によって最悪な形で事故に巻き込まれるのであった。

 

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