第7話
家庭教師とはすっかり仲良くなった。
コンピューターの使い方も習った。理解が速かった。基本的な勉強は理解が遅かった。
家庭教師はわからないことがあったら、どんな些細なことでも丁寧に質問に答えてくれた。
この国のこともたくさん教えてくれた。この国は科学技術が発展しており、その代わりに紙や木材などの資源は少なく貴重だから、木で作られた私のような家は本当に珍しく、国の許可をもらうのに両親は苦労したのではないかと言う。
街の外れにある森の木は切ってはいけないらしい。
他の国のことも教えてくれた。AIというものが発展しているらしいが、私にはそれをどんなに説明されてもわからない。でも、知識の豊富な人だ。
私はわくわくしながら家庭教師の話を聞いていた。
「どうしてあなたはそんなに色々なことを知っているのですか」
家庭教師に訊いた。
「僕は普通なら誰もが習う、誰でも知っていることを君に教えているだけだよ」
「もっともっと私に教えてください。あなたのお話は楽しいです」
私が笑って言うと、家庭教師は真顔になった。
「本当は僕が口で教えるよりも、君が街へ出て実際に色々なものを聞いて感じて体験したほうが何倍も楽しく、素敵なものになる」
その言葉に私は笑うのを辞めて、なんて危険なことを言い出すのだろうと思った。
「街は恐ろしいところです」
「街は君が思っているほど怖いところじゃないよ。事件に巻き込まれないよう、少し気をつければいいだけだ」
家庭教師は街の楽しさを語る。母の言ったことと家庭教師の言うことはどちらが本当だろうかという疑問が沸く。
家庭教師がどれだけ街のよいところを語っても、私にはその楽しさがわからないのだ。
それでも家庭教師といる時間は楽しかった。私の知らない童話を教えてくれたり、お願いしたりすると天使の絵も見せてくれた。
なぜ天使の絵を見たいのかと訊ねられたので、私は時々母にそう言われることが嬉しいのだと伝える。天使のような私はどんな顔をしているのですか、と訊くと、家庭教師は不思議そうな表情をした。
「君は自分の姿を見たことがないのかい」
一度もありませんと答えると、家庭教師は部屋の中を見渡す。
「そうか、全部木でできた家だから、姿を反射させるものがないのか……」
ひとりごとのように呟き、家庭教師は鞄からなにか茶色くて丸いものを取り出した。なにかと訊ねると、鏡だと言われた。
「光を反射させて、自分の姿を映すものだよ。鏡ほどはっきりしないけどガラスや金属でも光に反射すれば姿を映すことができる。とりあえずこれで見てごらん」
やっと自分の顔を見ることができる。喜んで丸い鏡を受け取ろうとしたとき、突然部屋の扉が開いた。母が物凄い剣幕で中に入ってきた。
「そんなものはおまえに必要ない!」
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