愛の森
明(めい)
第1話
繰り返し見る夢がある。
斜光の射す深い森の中を、一人の女の人が黒い服を着て歩いている。腰まで垂らした黒髪を揺らし、裸足で一歩一歩、地面を踏みしめながら。
夢の中の私は童話に出てくる囚われのお姫様のような暗い気持ちで、黒く高い塔のてっぺんにいる。
そこから森全体を見渡していた。
森の中で動くものはその女の人以外誰もいないから、私はいつもどこへ行くのだろう、森を抜けたら山が立ちはだかっていて、それ以上行くところなんかないと思いながら女の人の動きを見守っている。
女の人は、左腕に大きな怪我を負っているようだった。というより遠目からだが左手がないように思えた。そしていつも後ろ姿で歩いていた。だから女の人がどのような容姿で、どんな表情でいるのか知らない。
今日もその夢を見た。
暗くて黒い夢。
夢を見たときに私がいつも思う印象だった。
白いベッドから起き上がった。目覚めた直後はよく頭痛を起こして頭の中からキリキリという音が聞こえてくる。頭が回転しだすのには時間がかかる。
鳥の鳴き声が聞こえた。少しだけ開いている太く頑丈な鉄格子のついた天窓からは朝日が差し込んでいる。
青い空が見えたが窓は家の中にこれしかないので、外の空気が恋しくなった。
朝も昼も夜も、寝ているときも四六時中、私は一枚の布で作られた長袖の白い服を着ている。
父と母が「おまえには白が似合う」と言って着せてくれたものだ。ベッドも着ているものも白いから、目を覚ませばすぐに黒くて暗い夢から解放される。
ベッドの脇に置いてある櫛で腰まである黒い髪をとかし、私は二階に与えられている自分の部屋をそっと出た。
注意深く階段を降りているつもりなのに、じゃらじゃらという不快な金属音が耳に響く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます