魔王、未来へ跳ぶ 〜魔王と魔法について〜

花見月

第1話 衝撃の発表

魔族たちが集う国ライザルク。

 その国の中で最も大きく威厳のある建物、魔王城の前で一人の男が会見を始め、開口一番驚きの言葉を口にした。


「結論から言おう、俺は転生する。後任はヨイドーラに任せる」


 その言葉に会見に集まっていた聴衆、記者、そして魔王軍に動揺と混乱が伝播していく。


 何故、なにかあったのか、大病でも患ったのか、夢か現か、そもそも転生なんて可能なのか。


 様々な憶測と疑問が花火のようにぱっと湧いては霧散し、また打ち上がる。


 人々が頭に疑問符を浮かべる中、一人の記者が手と声を上げた。


「それは統一戦争が終わり、その後数年魔王様が表舞台にいらっしゃらなかったことと何か関係が?」


 その言葉と同時、場が静寂に支配される。


「鋭いな、端的に言えば俺は才能がない。平和を維持する才能とでも言えばいいか。平和を作ることはできたがその後がどうもダメらしい」


 確かにその男、バルトース・エクスタは長年続いている魔族間の争いを終わらせ、ライザルクという国を大きくした。だが彼は平和を保つことにはあまり適正がなかった。


 それは魔王が経験した戦後の様々な失敗、そして自分より遥かに平和維持に向いているであろう魔族がそばにいるからに他ならない。


「平和の維持……ですか。しかし、魔王様は先の戦争の最中、民に対する様々な施策を打ち出してくれていたではありませんか。自分を卑下する必要など……」

 

 別の記者が擁護の声を出し民もそれに追従するが、バルトースは苦笑しながら返答する。


「その様々な施策は大体、ヨイドーラが考えてくれたものだ。昔からそういうものはアイツの方が得意だった、俺が良い案を思いついてもそれを上回る物を出してくる。政治的な頭脳はアイツには敵わん」


 そう言ってバルトースはステージ横に立っているヨイドーラ・モルヴィーの顔を見る。


 ヨイドーラは微動だにせずこちらを向いている。赤い長髪の毛の一本も静止しているようだ。


「アイツはこれからの時代にこそ必要だ。この平和な時代に俺みたいな力はあるが政治能力の劣るヤツが上に立つより、民のことをより思い、それをきちんと形にできる、そんな魔族こそが“魔王“に相応しい」


 魔王の言葉に記者も聴衆も言葉を発することができなかった。今の話が本当であるならば正しくその通りであると誰もが思ったからである。


 ただ、戦時を生き抜き国を発展させてきた魔王バルトース・エクスタ。彼の功績は人々の希望であったことは確かであり、退任するとなるとやはり寂しいものなのかしんみりとした空気に包まれていく。


「そう悲観的になるな、なに、これからの世は素晴らしい物になるだろう。戦いは終わり、力ある者が上に立つ時代は幕を閉じた。魔法も俺が作った戦争用の魔法じゃなく、もっと身近な存在になること間違い無い。それにこれきりで別れというわけでもあるまい。今回使う転生魔法の成功率は99%、ほぼ成功する。ただ俺の転生が失敗したとしても然程問題はないだろう。でも……そうだな、俺から一つこの国に生きる全ての民へ頼み事だ。『前に進め』。途中で止まってもいいが、最終的に半歩でもいいから進んだぞという生き方をしてくれるとありがたい。未来を作るのはお前達なのだからな。新たな魔王のもとでお前たちが作り出した世界を未来で見たいのだ、だから転生する。隠居ではこれは叶わぬ」


 魔王の最期とも取れる言葉にその場の全員が耳を傾ける。啜り泣きながら聴いている者もいれば、メモを取りながら聴いている人もいる。


 魔王様ー……と所々から漏れ出る声は、やはり彼がどれだけ慕われているかというのが見てとれた。


「さて、そろそろ時間だ。皆集まってくれて感謝する。では最後に俺の名乗りで以って締めようか」


 そう言った途端、バルトースの魔力が高まっていく。やがて聴衆の目にもわかるように、高まった魔力が黒いオーラとして魔王の体から顕現、足元から天に向けて高く、高く立ち上る。


 激しい風が発生するが、精密なコントロールにより誰一人として当たらず、何一つとして破壊されるものはなかった。


「俺は魔王バルトース。世界よ、俺が通る!!」


「「「世界よ、俺が通る!!!」」」


 魔王の名乗りに続いてその場全員が決め台詞を復唱した。その声は如何なる風でも押し流すことのできない、まるで地平線まで届くかのような力強いものだった。


「……ありがとう」


 バルトースはそう呟くと夥しく膨れた魔力を霧散させ、背後の魔王城へと歩いて行った。

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