第3話
「ここは、被害者の書斎のようだな」
その部屋は壁際に本棚やキャビネットがずらりと並び、書籍や様々な小物が並んでいた。それらを橘はゆっくりと眺めていく。
「……どうやら被害者は、民間伝承や民俗学に興味があったようだな。特に妖精には強い思いがあったようだ。その手の本が多くあるし、人形もそれらしいのが並んでいる」
「ああ、本当ですね。――あ、これなんて、まさに妖精って感じじゃないですか」
北川が棚に並んだ人形の中の一つを指さして言う。それは人形というよりフィギュアと呼んだ方がしっくりするもので、トンボのような透明な羽根を背中に生やしたピンクの髪をした少女の像だった。
「チャム・ファウだな。聖戦士ダンバインに出ていたミ・フェラリオだ」
「あ、ああ…、アニメですよね、昔の?」
「ああ、そうだ。バイストン・ウェルに飛ばされた主人公がオーラバトラーに乗って戦う、今流行りの異世界転生の元祖といってもいいアニメだ」
「はぁ……、橘警部はアニメにも詳しいんですね」
「詳しくはない。常識のうちだ」
「常識……」
いや、違うでしょ! とツッコミを入れたかった北川だが、そこはぐっと堪えた。そしてその時あるアイデアが閃き、代わりに口に出した。
「警部、もしかしてこのフィギュアを釣り竿か何かにぶら下げて、奥さんが被害者の間にひゅっと飛び出させ、驚かしたんじゃないですか? それでバランスを崩し――」
「いや、それはどうかな……」
そこで橘はそのフィギュアを手に取り、調べた。
「……何かを取り付けたような痕跡はない。それに釣り竿状のものも室内には見当たらないしな」
「それは、奥さんがどこかに隠したんじゃ。妖精もそれじゃないものを使ったかも……」
「それを実行したとして、奥さんにそれらの証拠を隠滅する時間があったかな? 当然落ちた被害者の元にすぐに現れたのだろう?」
「はぁ、確かに下で目撃していた数人の証言では、被害者が落下後程なく奥さんがかけ降りてきたそうです。時間は分かりませんが、感覚的にはすぐ、といった感じったようです」
「そして、そのまま一緒に病院に付き添っていった。ということは、この現場はそのままだ。掃除の途中だったのは確かなようだが――、それ以外に不審なところはないな。それに奥さんに何かされたなら、被害者はそう言い残すだろう。妖精の話の前にな」
そこで橘が窓際の棚に近寄った。
「事故の時奥さんは、この棚を掃除中だったのだろう。この上の段のものを全てそのこの床に出し、綺麗に掃除している最中だったようだな」
橘の言う通り、棚の一番上の段が空になり、そこに置かれていたと思しき物が畳の上に置かれていた。
「変わったものが多いな。埴輪、勾玉、素焼きのツボ、それに鏡か……」
「古代のモノですね。本物じゃないですよね?」
「さあ、それはなんとも――」
橘が床に置かれたそれらを手に取ってみる。
「レプリカっぽいな。それにこの鏡も、古代のモノではないな。明治以降の新しいものだろう。ほら、裏に天使の模様が掘られている。古代の銅鏡はもっと幾何学的な模様だし、キリスト教を題材にしたようなこの絵画的な模様は、禁教されていた江戸の物とは思えんしな」
橘が説明しながら鏡を北川に見せた。直径二十センチ程の銅製の鏡で、裏には背中に翼を持つ天使が二人、天に向かうように飛んでいる様子を描いた模様が掘られていた。
「それにしても、綺麗ですね、その鏡。銅鏡というとあの青緑色の奴を思い浮かべますが、それはピカピカだ」
「常に手入れしているのだろう。そうでなければすぐに曇ってしまう。――待てよ、銅鏡、綺麗に手入れ……、まさか!」
橘が手にした鏡を目を見開いて凝視し、叫んだ。
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