私の推しは神話級

順三朗

第1話 創世神話

お姉ちゃんが昔話をしてあげるね。


ある時、高天原たかあまはらの神さまたちは、

私たちのいる下界に新しい国を作ることにしました。

国生くにうみだね…。)


伊邪那岐命いざなぎのみこと

伊邪那美命いざなみのみことという

男女の若い神さまが任命されて、

天の沼矛あめのぬほこというほこを授けられました。


「ほこ、ってなあに?」

「木の棒の先に金ぴかの鋭い刃が付いた武器みたいなものかな」


2柱の神さまは、天の浮橋あめのうきはしという天に浮かぶ橋にたち、

授けられた矛を勢いよく下界に刺しました。


(かき混ぜるやつだね)


矛は私たちのムラからずーっと南にあった鬼界島きかいじまに命中し、

大爆発を起こしました。


ドッカーン!


お姉ちゃんは両手を振り上げ、大声で叫びます。

びっくりする子どもたち。


鬼界島は真っ赤に焼けながら跡形もなく吹き飛びました。

この辺りは海に沈みました。


「島、なくなっちゃったの?」

「うん。もう無いね」

「ふぇぇ…」


山頂部は大爆発で吹き飛び、空高く舞い上がって、

青い空はき消え辺りは闇に閉ざされました。

鬼界島だった土は雪崩なだれのように一気に崩れ、

津波のように南の大地を覆い尽くしました。


「しゅごい…」

「ちなみに、このとき積もったのがアカホヤだよ」

「山にある赤い土のやつ?」

「だねえ」


赤く焼けたアカホヤは隕石みたいに大地に

無数に降ってきて、九州南部の人々は全滅しました。


「怖い…」

「そだね~」


で、一回休み。


「休み?」

「イザナギ様とイザナミ様は、神さまたちに

  めっちゃ怒られた。国生みもないなった」

「ないなった…」

「おしまい。ちゃんちゃん。ほら、もうみんな寝ましょ」

「怖いよう」

「ふええぇえぇん!」

「あれれぇ?」


子どもたちは恐怖で震え上がり、

寝るどころではなくなってしまった。残念。

お姉ちゃんのおとぎ話は失敗。一回休み。



※約7300年前の鬼界カルデラ大爆発では推定170立方キロメートルもの

  火山灰が降り注ぎ、九州南部では厚さ約1メートルの地層として残っている


参考:“鬼界カルデラ”過去3回噴火…マグマ蓄積の過程は 神戸大とJAMSTEC研究チームが船で掘削調査(鹿児島ニュース)

https://www.youtube.com/watch?v=7WD2DIXjx5Y

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