第15話 占い師とラピスラズリ
町の人たちは、明日から三日間開催されるお祭りに向けて準備をしていた。
組み立てられる屋台、そして色とりどりの飾りが町を彩っていく。
「明日からのお祭り、めいっぱい楽しもうね」
リドの言葉にイトは大きく頷いた。
二人が準備の様子を見ていたそのときだった。
「リド君じゃん! ひっさしぶりー!」
元気な女性の声が聞こえ、二人は後ろを振り向いた。そこには、薄紫色のワンピースを着た銀髪ロングヘアの女性と、ボブヘアーで瑠璃色の艷やかな髪を持つ女性型の宝石人形がいた。
リドは驚いた表情になる。
「ラナさんとラズリさん! あれ、まだこの町にいたんですか? そろそろ旅に出るとか言ってなかったですか?」
「せっかくだから、この町で春の祭りを楽しんでから旅に出ようと思ってねー!」
「あぁ、なるほど」
銀髪の女性の視線がリドの隣のイトへと移動する。
「もしかして、この子……リド君が契約した宝石人形ちゃん?」
「そうです。この子は〜……」
リドがイトを紹介しようとすると、銀髪の女性は手を前に出してリドの言葉を遮った。
「あ、待って! なんの宝石人形か当ててみせる! ちなみに私はラナ。占い師です! 隣の彼女が、ラピスラズリの宝石人形のラズリ!」
ラナはイトの方を見てパチっとウィンクをした。
「よろしく」
ラズリはハスキーボイスで挨拶してくれる。
ラナはさっそくイトをじっくり観察する。
「うーん……透明な宝石ね。ダイヤモンドって感じの輝きじゃないし、リド君はダイヤモンドを選ばなさそう。水晶とも違う気がする。無色透明な宝石……」
イトの周りをぐるぐると回りながら、ラナは考えていた。そしてついにわかったのか、ぽんっと手を打つ。
「ホワイトトパーズの宝石人形!」
ラナは自信満々な顔でそう答えた。
「ラナ、違うみたいよ」
ラズリがイトの目をじっと見てそう言った。
いつの間にか、ラズリの雰囲気がさっきと違っていた。ラズリの艷やかな瑠璃色の髪に、金の星の粒がチラチラと瞬き出したのだ。
ラズリは今、宝石人形が宿す神秘の力を使っている。
「え、違うの? 実はやっぱりダイヤモンドの宝石人形とか?」
「それも違う」
リドとイトが何か言う前にラズリが言う。
「えー!? なんの宝石人形なのー!?」
ラナはもうお手上げのようだ。
「答えは、アクロアイト……ホワイトトルマリンです。名前はイト」
リドに紹介されたイトはペコリと頭を下げた。
「アクロアイトかぁ」
ラナは、なるほどと納得した。
イトはじーっとラズリを見ていた。
ラズリもイトの視線に気が付く。
「何か気になることでも?」
ラズリの言葉にイトは頷く。
「あ、あの、なんでわかったんですか? わたしたち、なにも言ってなかったのに……」
「あぁ、それね。宝石人形が持つ神秘の力を使ったの」
それはわかる、という意味でイトは頷く。
「ラピスラズリの石言葉には『真実』ってあるの。だから、私は真実か否かを見極めることができる」
ラズリはそう言って自身の片目を指さす。ラズリの瞳も髪と同じく瑠璃色。そしてよく見れば、瞳の中もチラチラと金の粒子が舞っている。その様子はスノードームのようであった。
「すごい……カッコいい」
イトはキラキラとした眼差しでラズリを見た。
「うふふ〜すごいでしょ、ラズリって! 正直なところ、占いもラズリがメインで私がサブって感じだもんね〜」
ラナは自分が褒められたかのように嬉しそうな顔だった。だが、ラズリは少し不満気だ。
「私はラナのこと、サブだなんて思ってないから。ラナの話術のおかげで、私は相手の真実を見極めることができてる。私たちは、二人で占い師をしているんだから」
「ラズリ〜大好きー!」
ラナがラズリに抱きつく姿を見て、リドとイトは、ほっこりした気分だった。
「ラナさんとラズリさんは、とっても仲良しなんだね」
イトの言葉にリドは頷いた。
立ち話もなんだから、ということで近くのベンチに座った四人。
「へぇ〜授業でそんなことをするんだねぇ」
「クリソス君っていう、クリソベリルキャッツアイの宝石人形とよくおしゃべりしてて……」
リドとイトは学校での出来事を喋っていた。
そんなとき、ガヤガヤと子どもたちの話し声が聞こえてきた。
「アイツ、また逃げてったなー」
「もうぼくたちとは、遊びたくないんじゃない?」
「オレたちが話しかけると、嫌そうな顔をしてるもんな〜」
リドたちの前を通り過ぎる三人の少年。年齢は十歳ぐらいだ。
少年たちの後ろ姿を見ていたラズリは小さくため息をついた。
「今日も上手くいかなかったか……」
リドとイトは首を傾げる。
「あの子たち、誰かとトラブルでも……?」
リドが聞いてみると、ラナが答えてくれた。
「トラブルっていうか〜仲良くできないって感じ? ちょうどリド君が学校の寮に入るために引っ越したちょっと後に、この町に越してきた一家があってね。その一家の子供がココペ君って言うんだけど、近所の子供たちと中々打ち解けられないみたいで……」
「ココペも、さっき私たちの前を通っていた子たちも、お互い仲良くなりたいと思っているのに、上手くいかないみたい。明日からのお祭りで親しくなれたらとは思ってるけど」
ラナとラズリはココペという少年と、他の子たちが仲良くできないことを心配しているようだ。
イトはぎゅっと手を握る。何かできたらと思うが、ココペのことを全く知らないので、どうしょうもないのが現実だ。
リドはそんなイトの様子を見ていた。
「そのココペ君ってどこに行ったら会えるかな? 自宅?」
リドがそう聞くと、イトは思わずリドの方を見た。
「町の近くにある森でよく姿を見かける。スケッチブックらしき物をいつも持ってるから、絵を描きに行ってるんだと思う」
ラズリが森の方を指さす。
リドは立ち上がった。
「ココペ君を探しつつ、久しぶりに森を探索しようかな。イトも一緒に来る?」
「行く!」
イトも勢いよく立ち上がる。
「二人とも、気をつけていってらっしゃいー!」
ラナとラズリに見送られて、リドとイトは森へと向かった。
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