第6話:魔脈の影
夜の小屋:スープと語り合い
ヴェールウッド村の夜は静かで、木々の間を抜ける風が小屋の隙間から忍び込む。タクミは簡素なベッドに腰掛け、傷だらけの体に包帯が巻かれていた。リアは隣で眠りにつき、微かな寝息が聞こえる。小屋の入り口に立つエリナが、木の椀に盛ったスープをタクミに差し出す。湯気が立ち上り、僅かにスパイスの香りが漂う。
「食え。傷が癒えるには力が必要だ。」
タクミは椀を受け取り、掠れた声で呟く。
「こんな待遇、鉱山じゃ考えられねえな…ありがとよ。」
スープを一口啜り、温かさが疲れた体に染み渡る。エリナが床に腰を下ろし、膝を抱えてタクミを見据える。彼女の瞳には、夜の闇に映える鋭い光があった。
「この世界、アルテリアの現状を知ってるか?」
エリナの声は低く、静かに響く。タクミがスープを飲みながら首を振る。
「鉱山で鎖に繋がれてただけだ。貴族が奴隷を使って何かやってるってくらいしか分からねえ。」
エリナが目を細め、語り始める。
「この世界は魔脈に支配されてる。貴族がその力を独占し、民は奴隷にされてる。あの鉱石を採らせ、魔導士に力を与えてるんだ。だが最近、魔脈が不安定だ。鉱山の奥で異常な反応が起きてるって噂もある。」
タクミの手が止まり、スープの椀を膝に置く。彼の頭に、鉱山で触れた魔脈鉱石の微弱な振動と熱が蘇る。目を細め、呟く。
「魔脈…あの鉱石か。エネルギー源として使える。俺が転移した原因も、あれの異常な波長かもしれねえ。」
エリナの瞳が鋭く光り、身を乗り出す。
「お前、何者だ?」
その声に驚きと好奇が混じっていた。タクミがエリナを見据え、苦笑を浮かべる。
「ただの技術者だよ…だった。今は知らねえ。現代じゃロボットを作って人を救おうとしてたが、ここじゃ鎖に繋がれてただけだ。」
彼はポケットからガイストのコアを取り出し、続ける。「こいつは俺の作った喋る道具だ。ガイストって名前でな。」
その時、コアが青く光り、低い声が響いた。
「ただの技術者にしては無謀すぎるだろ。崖から落ちても生きてる時点で普通じゃねえ。」
エリナが一瞬目を丸くし、コアを凝視する。(現代?そんな街の名前は聞いたことがないな…ロボットとはなんだ?こいつが言ってた通り、本当に喋るのか…半信半疑だったが、これは確かだ。)彼女の心の中で驚きが確信に変わる。タクミがコアを睨み、軽く叩く。
「黙れ。お前が喋るからややこしくなる。」
ガイストが小さく光を点滅させ、皮肉っぽく返す。
「お前の無謀さを俺が補ってるだけだ。感謝しろよ。」
タクミが鼻を鳴らし、スープをもう一口飲む。エリナがそのやり取りを眺め、驚きが収まると小さく笑った。
「喋る光る石と異邦人か…面白い奴だな。」
エリナの笑顔に、タクミが一瞬言葉を失う。だが、すぐに目を細め、呟く。
「面白いかどうかは分からねえが…あの鉱石が不安定なら、貴族にとってもまずいはずだ。そこに付け込めねえか?」
エリナの笑みが消え、鋭い視線がタクミを捉える。
「お前…頭が回るな。確かに魔脈が乱れれば、貴族の力も揺らぐ。だが、その乱れを貴族に逆らう力に変えられる奴がいなけりゃ意味がない。」
タクミがコアを手に持ち、微かに笑う。
「俺がいるだろ。技術者だった俺なら、あの鉱石をどうにかできるかもしれねえ。」
エリナが立ち上がり、タクミを見下ろす。彼女の瞳に、微かな期待が宿っていた。
「その瞳に希望があるなら、ここで生きてみろ。ヴェールウッドは貴族に抗う最後の砦だ。お前がその力を持ってるなら、私と一緒に戦える。」
タクミがスープを飲み干し、椀を床に置く。傷だらけの手でコアを握り、呟く。
「戦うか…俺は元の世界に帰りたい。だが、もう目の前で誰かを失うのは嫌だ。あの少年を…また助けられなかった俺は、もうそんな無力感は味わいたくねえ。」
彼の声が一瞬震え、現代の瓦礫の下で手を伸ばす人々の記憶がちらつく。だが、エリナの瞳を見つめ、続ける。
「お前が俺を助けてくれた。魔脈が転移の鍵なら、この世界で戦えば、帰る道も見つかるかもしれねえ。それが俺の理由だ。」
ガイストが光り、低く言う。
「なら、ちゃんと計画立てろよ。無謀だけで死ぬな。」
タクミが苦笑し、エリナが小さく頷く。
「計画なら私にある。お前はその頭と道具を使え。」
小屋の外で風が木々を揺らし、夜の静寂が二人を包む。タクミの瞳に新たな決意が宿り、エリナの言葉がその火をさらに燃やした。ヴェールウッド村の小さな灯りが、アルテリアの未来を照らす一筋の光となりつつあった。
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