第10話 大切な人
次の日。
オレは、放課後に二人を呼び出した。場所は――いつもの中庭。
普段は笑い声が響くその場所も、今は少しだけ静かだった。
永麻と美土、二人が少し距離を置いて並んで立っている。
どちらも、昨日オレに気持ちを伝えてくれた大切な人。
オレは深く息を吸って、口を開いた。
「昨日…二人から気持ちを伝えてもらって、すごく嬉しかった。
でも…すぐに答えを出せなくて、正直に言うと、今もまだ迷ってる。」
二人は黙って、オレを見つめていた。
「どっちか一人を選んだら、もう一人を傷つけることになるんじゃないかって思って…
何度も何度も考えた。」
風が吹いて、木の葉がカサリと鳴る。
「でも…やっぱり、ちゃんと伝えたい。
二人とも、オレにとって本当に大切な人なんだ。」
美土が小さく目を伏せ、永麻が静かに瞬きをした。
オレは続けた。
「恋ってなんだろう、好きってどんな気持ちなんだろうって、昨日からずっと考えてたけど、
今のオレには、まだ“誰を好きか”って言いきれるほど整理がついてない。」
「でも、嘘だけはつきたくない。
中途半端な気持ちでどっちかを選ぶことも、曖昧な優しさで答えることもしたくない。」
オレの声が少し震えていた。
「だから、もう少しだけ…このまま、二人とちゃんと向き合っていきたい。
逃げないで、自分の気持ちをちゃんと見つけたいんだ。」
しばらくの沈黙が流れた。
その沈黙は、冷たいものじゃなくて、何かを受け止めようとする静けさだった。
すると、美土が先に口を開いた。
「そっか。……ケタルらしいな。」
穏やかな笑みを浮かべていた。
「オレ、ちゃんと分かってるよ。
ケタルが考えてくれてたこと。自分の気持ちに真剣だったこと。全部伝わった。」
永麻も、ふっと微笑んだ。
「私も、なんか納得したかも。
ケタルがそうやって真剣に言葉を選んでくれたの、すごく嬉しい。」
オレは、胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じた。
「ありがとう…」
「焦らなくていいよ、ケタル。」と永麻が言った。
「ちゃんと悩んで、ちゃんと向き合ってるのって、すごい素敵だと思う。」と美土が続けた。
オレは、二人に頭を下げた。
「……本当にありがとう。」
そして三人で、少し照れくさく笑った。
空はもうすっかり夕焼け色で、中庭には優しい秋の光が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます