第8話 美土とオレ

美土はフェンスのそばに立ち、夕焼けを背にしていた。

その横顔はどこか決意に満ちていて、いつもの軽い感じはなかった。


オレが何か言おうとした時、美土が先に口を開いた。


「ケタル、この前は…急に好きだなんて言って、ごめん。

あの時、気持ちが爆発しそうで、もう言わずにはいられなかったんだ。」


オレは黙って聞いていた。

胸の奥がまたドクドクとうるさくなっていた。


「でもさ、ちゃんと伝えたかったこと、まだあるんだ。」


美土はオレの方を向いて、目をそらさずに言った。


「オレ、本気でケタルのことが好き。

友達としてじゃなくて、一人の人間として。」


その声は、風の音に混じりながらもしっかり届いていた。

まっすぐで、嘘のない言葉だった。


美土は一歩近づいて、笑った。


「返事、今じゃなくていいよ。

でも、ちゃんと考えて。

オレは、待ってるから。」


それだけ言って、美土はその場を離れた。

足音がドアの方へ遠ざかっていく。


オレはただ、動けなかった。


風が強く吹いて、空には茜色が広がっていた。


(こんなにも誰かにまっすぐ想われるって、…すごいことなんだな。)


そう思った時だった――

ポケットの中のスマホが震えた。


画面を見ると、そこには 「紫原永麻」 の名前と、メッセージが表示されていた。


永麻:

「今、少しだけ会えない? 中庭にいる。」


オレの心臓が、またひとつ、大きく鳴った。


(――今度は、永麻…?)


美土の言葉がまだ心の中に残る中で、

次の場所へ向かう決意をした。

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