第2話計画と現実
寿老人は福禄寿からの人生計画変更届に目を通していた。
折角念入りに立てた人生計画を遂行できず成人になる前に、大幅な修正が必要となるケースがここ最近、比較的平和な地域で増加していた。
戦争や、内戦に何十年も無縁で、個人の自己実現に集中できそうな国や地域で、大きく道をはずれる輩が増えていた。
神々には予想外の一つで、生まれた時から 平和で経済的不自由のない環境で育ったにも関わらず、中には何の目標も目的も持つこともなく、時間をもてあまし快楽と享楽にふけり堕落し、職に就かず親元で一生独身を決め込み自己中に生きる輩が現れ、社会の繁栄発展に貢献することもなく秩序の荒廃をもたらす要因の一つとなっていた。
寿老人のもとには、零歳から二十五歳までの初稿の人生計画変更届が日に十五、六件届いている。
福禄寿は本来の人生計画書作成の仕事に加え、人生計画の修正変更案作りに主に携わっていた。
寿老人が、福禄寿の作った変更案にさらに手を加えることはなく、あくまでもお知らせにちかい報告であった。第二稿(二十六歳以後)以降のためでもある。
主に芸術家志望の人生計画を担当している
弁財天は予定より早く、こちらの世界(あの世)に戻ってくる帰還者の問題に頭を悩ませていた。
まず、地上(この世)の去り方がよくない。
地上での寿命をたっぷり残して、突然、自ら終止符をうち、あの世へ帰る。
予定外の帰還者は勿論あの世でも受け入れはできず、居場所なくこの世とあの世を彷徨う不成仏霊となり、人生計画の予定の寿命まで天上世界(あの世)には入れない。
この世での死に方には、病死、事故死、災害死、戦死、肉体の老衰による自然死など、
いろいろあるが、唯一自助努力で逃れられるのが自死である。
人生計画で自死を予定している者など一人もいない。
他人を殺すことも、自分を殺すことも、人殺しである。
勿論その結果として、残された関係者からの恨まれ方の大小で罪の重さは違ってくるが……。
でも、自死の厄介なのが、来世生まれかわるとき親として引き受けてくれるところを探すのが、かなり難しくなることである。
とくに親存命中なら尚更だ、どんな子供であれ、親は時間とお金をつぎ込み育てた子供が、間接的に社会に貢献するとか、親に恩を返すこともなく、自死などされたら、遺された親は虚しすぎるだろう。
武士の時代の切腹を命ぜられての自決や、戦場に於いて二十四時間以内に死が迫っている状況下で行う自決とは明らかに区別されるのが、夢やぶれ、目標を失い生きていることに虚しさを抱き、自分の人生に終止符をうつ者の場合だ。
ただ単に自分に才能がないことを目標にしていたことだと、解ってからが本当の自分の人生の始まりだということに気付けない甘えからの自死は、あの世に帰って嫌というほど思い知らされ一番後悔する輩だ。
家族構成から、地域のリーダー、国家のトップまで、人員配置に主として携わる布袋尊
を悩ませている問題は、予定通り出産が行われないことだ。
経済的に豊かな国で、出生率が低く、貧困国のほうが大家族で出生率が高いのは、神々の予定が狂う要因の一つになっていた。
人生計画を立てて生まて来るとは云え、自由意志を与えられた人間が、どうゆう選択を
するかは、やはりこの世で生活してみないと解らない結果だった。
自由意志のもたらす功罪の一つと云えた。
予定していた両親の元に誕生できそうにない『FAえ335799』の場合、老舗和菓子店の四代目になることが予定されており、優先条件の一つになっていたため、あまり日時はずらせず、三代目の両親の兄弟のこどもとして誕生させることが決まったのだが、予定通り
四代目になれるかどうかは、本人次第だ。
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