これは餓士ですよ

花森遊梨(はなもりゆうり)

変わり映えのない毎日

「変わり映えのない毎日だ」

これは基本的に大学二年生か文学家の導入における常套句である。


東京 日比谷


「最近どうかって?変わり映えのない毎日だけど」

19歳、カフェ店員の禅林寺紅葉ぜんりんじもみじの場合は「毎日喫茶店と自宅の往復で張り合いがない」という愚痴とマウントの複合技である。


「ワタシも変わり映えのない毎日なんですけどね、どこで差がついたって言うんですか?」


対する25歳の弁護士、八甲田枯葉はちこだくれはの場合は「今日もまた仕事がなかった」という張り合いがありすぎる意味がある。


「だいたい、新司組の弁護士以前にはワタシはカタギの社会人。まともな社会人に毎週ジャンプ漫画みたいな熱い展開など訪れないんですよ」

「逆に言えば、今からでもあらゆる消費者金融の案件に首を突っ込み、日比谷公園で国選弁護人の列に並べば間違いなく読者を飽きさせない大冒険を絶え間なくお見せすることができるはずよね?」

「それをまた国に選ばれなかったワタシに言うのがいい根性してるなっていつも思いますよ」


改めて見ると、カフェの店内に蠢く客の胸元には驚異的な確率で天秤が象られた金のバッジ、すなわち弁護士バッジが輝いている。にも関わらず、バッジの男女たちは皆、コーヒーだけを頼んでこの世の終わりのような顔で虚空を眺めている。目の前に広がる日比谷公園四季折々の自然美なんぞ知ったこっちゃないという雰囲気であった。


「国選弁護の仕事を断られたらさっさと事務所に帰ったらいいでしょ?ノキベンとはいえやることくらいあるでしょ?母屋をとるとか」


「アデューラの事務所に戻っても夜11時まで印鑑を押すだけなのがいやだからここにいるって知ってるはずですよね?おまけに事務所のコピー代と経費を払って言われるし、この前はトイレットペーパーは自腹で買えと言われましたし」


このバラエティカフェの店名は六方むほう

運営はアデューラ法律傘下のアデューラフードサービス。

『東京一歴史があり、東京で最も満足度控え目な空間です』

『法曹士業港区女子にのっぽくん、人の漠然とした憧れを集める人々が次々に用を足す場面が目撃できます』

『ここは日本で最も恥知らずなカフェ!日本人も外国の人も、ぜひ足をお運びください 』


2人の女性がどうやって生きていくかのストーリー。うまくいけば19歳と25歳が幸せなキスをして終わるかもしれないが、ここに出てきた2人がそれまでにお亡くなりになっている可能性もあるのだ!


「アデューラ事務所?今日バックれてる新人の枯葉ってアンタか!!何お客様になりすましてんの!」


「チッ!」

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