息子君物語
高台苺苺
第1話 涙目の春のパン祭り
※「春のパン祭り」お題をいただきましたので書いてみました!ありがとうございます!
「お母さん!誰が1番になるかのかしたいから春のパン祭りををしてもいい!?」
学校から戻ってくるなり、某パンメーカーの春のイベント!「春のパン祭り」のチラシandシール貼付紙を差し出す息子に、母は眩暈を起こしそうになった。
ああああ~~!!とうとう気づいてしまったか!!
シール集め!
商品ゲット!
誰が一番先に商品ゲットをするかの競争!
美味しいパン!
もう小学生男子がだいっ好きなワードが散りばめられた魅惑のパンメーカーの春の戦略的な購買戦略!!!
誰だ!うちの息子に余計なイベント教え込んだのは!
と、思うが無下に「ダメ!」と言っても聞かないのも小学男子である。
母は嘆息し、そのちらしをとりあえず受け取り、目を通し(よっく知っているよ!何回かチャレンジしてお皿ゲットしたもん!)ニコリと笑みを返す。母が反対するとは夢にも思わないで、目をキラキラさせている息子を見下ろして。
「哲郎、このちらしはどうしたのかな?下校途中にお店に寄るのは禁止だよね?」
さーっと露骨に分かりやすく青くなる息子。やれやれ。
「あの…違うの…これは‥瞬君が…あの…そのごめんなさい。そこのコンビニのおばさんから貰いました」
やれやれ。
「正直に答えたので今回は良くないけど許すけど、次回はダメだよ?お巡りさんに捕まる事もあるんだからね」
マジである。
昔、コンビニに立ち寄り、読みたい漫画の雑誌を持ってトイレで読んでいた子が店員に「万引き犯がトイレに立てこもっている!」と通報され、危うく補導になりかけた事件があったらしい。(母親が代金支払い厳重注意で済んだと聞いた)
食玩の目当ての物がなくて諦めきれなくて、どこかにあるかもとうろうろし過ぎて万引きと間違えられて、同じく店員に以下同文。とかね。
確かにそこのコンビニのおばちゃん店員は顔馴染だけど、馴染でない真面目なバイトの場合は何があってもおかしくはないのだ。そして下校途中のお店等の立ち寄り、購入は禁止の校則なので論外なのだけどね。
しゅんとする息子に、「それで?」と促すと、さっき叱られたのをころりと忘れて目を輝かす。
「あのね!クラスメイトの大滝君と田中君と松尾君はね!毎年「春のパン祭り」をしているんだって!パンを食べて、シールを集めると、お母さんの好きそうな可愛いお皿がもらえるんだよ!素敵でしょう!?」
ほほう。母の心を動かす作戦ですか。なかなか考えましたね。
でもこの皿は1枚あってもなあ…それに我が家はパン食一家ではなく、どちらかというとご飯党一家。で?期限はあと1週間ちょい?思いっきり!ぎりっ!ぎりじゃない!!
ダメ!!という言葉が喉まで出かかったが、期待値弾けんばかりに目を輝かせる息子。大方みんなに「僕もやる!」と断言してきたんだろう。確かにやりたい気持ちは分かる!でも1週間ちょいでこの点数を集めるのは…きつい。
「哲郎、問題です」
「はい!」
「このお皿を集めるのに、シールは何点集めるのですか?」
「えーとね!30点!」
「うん。で?うちが一番食べている食パンは何点?」
「2点!」
「じゃあ、30点集めるのに、食パンを何個買うのかな?」
哲郎は暗算と両手使いで計算を始めた。
「15個?」
やっと現実が見えたのか、哲郎は青い顔になった。
「正解。で?食パンには何枚入っている?」
「6枚」
「15×6は?」
「え、と、え、と‥‥90枚」
「正解。で?あと約1週間ちょい…えーと10日間か、すると1日何枚のパンを食べるの?」
「えーと…えーと…9枚?」
「正解。ではうちの家族は4人ですが、妹の美樹はまだ3歳なので数には入れられません。だから3人ね?お父さん、お母さん、哲郎の3人で1日一人何枚のパンを食べるのかな?」
「…3枚!!!3枚なら楽勝だよね!!お母さん!!」
おい!!!一足飛びに明るい結論に飛びつくな!!!
と、怒鳴りたいのをぐっと抑えて母は根気よく続ける。
「1日3枚。毎日10日間だよ?できるの?その間、ご飯はなしだよ?」
「平気だよ!!たった10日間だけご飯は食べないで、パンを食べればいいんでしょ?楽勝だよ!!!」
言い切りましたね?簡単に言いましたね?
「あのさ、哲郎、それさ哲郎一人が食べるんじゃないんでしょ?お父さんとお母さんは別にそのお皿いらないんだけど、食べなきゃいけないの?」
はっ!として哲郎は「お願いします!お父さんにもお願いする!!」と懇願してきた。これはも~~口で言って説得しても無駄だなパターンである。
わかったよ、哲郎君。この過酷なパン祭りレースに参加する意味を身をもって知って貰おうじゃないか!!
と、母は「春のパン祭り教育」をすることを決意したのだった。
その夜、帰宅した夫に息子は熱弁ふるって懇願し、事情を私から聞いた夫は大爆笑で「春のパン祭り教育」をOKした。
そして次の朝から「春のパン祭り」が始まった。(事前に息子とコンビニで買ってきておいていた)
1日目:
朝=目玉焼き サラダ、ヨーグルトにトースト1枚。×3人分
おやつ=フレンチトースト 1枚分。×3人分(美樹の分)
夜=クリームシチュー パン1枚×4人分。
食パン2斤分の4点ゲット。
2日目:
朝=スクランブルエッグ ブロッコリー ジャム トースト1枚×3人分
おやつ=くるくるサンドイッチ。耳は揚げパン風。×3人分(残りは旦那が夜に食べた)
夜=ハンバーグとトースト1枚。×4人分。
食パン1斤分の2点ゲット=合計6点。
3日目:
朝=目玉焼き サラダ、ジャム トースト1枚×3人分
おやつ=ピーナッツバターを塗ったパン1枚×3人分
夜=野菜スープ 肉野菜炒め パン1枚×4人分
食パン2斤分の4点ゲット=合計10点!
4日目
朝=目玉焼き サラダ トースト1枚×3人分
「お母さん…」
朝起きて来た哲郎が涙目で私の腰に抱き着いた。
「何?どうしたの?早くしないと学校に遅れるよ?早く食べなさい」
「うわあああああーーーん!!もうパン嫌だよおお!ご飯を食べたいよおお!もう春のパン祭りをやめるううううう!」
はい!きたー!きたきた!
てか?えーと?1,2…まだ4日、いや正味3日間でリタイア!早すぎない!?あれだけ誰よりも早く勝ちたいと闘志を燃やしていたのに、3日ですかあ、息子君よ。根性意外とないなあ…とほほほほ。
でもまあ、ご飯大好き!息子君にしては頑張ったか。
私は苦笑して屈みこんで目線で話す。
「哲郎、春のパン祭りは簡単だった?」
ぶんぶんと首を振る。
「1日一人3枚パンを食べ続けるのは簡単?」
ぶんぶんと首を振る。
「お父さんもお母さんも哲郎の為に毎日パン3枚(以上だけどね)生活頑張ったんだよ?なのに簡単に諦めちゃうの?ご飯食べたいから?それだけで?」
うーと涙目の哲郎は、鼻をすすりながらしゃくりあげて言う。
「ごめ…ごめんなさい‥簡単に約束して…おと、さん、お母さんごめんなさい。でも僕‥欲しかったの。1番になりたかったの…ご飯も食べたいの」
「うんうん」
「えも…ご飯…ご飯食べたい…パン、毎日大変…ごめ…ごめんなさい」
うわーんと泣く哲郎の頭をよしよししていると、髭を剃っていた夫が顔を出して苦笑した。私も苦笑を返して、ぽんぽんと軽く顔を叩くとにこりと笑った。
「じゃあ、ちゃんとお父さんにも謝ってきなさい。そしたら卵かけごはんを食べていいから」
「ほんと!?でもご飯炊いていないよ?お母さん!」
冷凍庫から冷凍しておいたご飯を取りだすと、やったああ!と小躍りする息子に、お父さんにもちゃんと謝ってらっしゃい!と指さすと、ぴゅっ!と洗面所に走って行った。
てなことで、息子の春のパン祭りは3日で終了。痛い目にあったので、これからは軽々しく「誰誰君がしているから!僕も〇〇したい!」とかは言わなくなるかなあ?と期待している母だった。
夕食は久しぶりの炊き込みご飯と鳥の照り焼きとサラダと漬物。満足げに食べる哲郎。家族全員が揃う楽しい食卓で、私は爆弾を投下した。
「さて!!春のパン祭り教育は終わりだけど、ここまで集めたらやっぱりお皿の1枚は欲しいよね?!」
「え?」
と、哲郎がぎょっとした顔を向け、夫は笑いをこらえている。
「なので!ラストスパート!5日かな?みんなもパンを食べてお母さんの為に!お皿をゲットしよう!!」
「ええええー!!また毎日パンなの!?今朝、もうしないっていったじゃん!!」
「それは、哲郎の春のパン祭りね。今日からは、お母さんの!春のパン祭りです!頑頑張れるよね?お母さん、哲郎のお願い聞いたんだもの。哲郎も聞いてくれるよね」
「え!?」
「ね!!」
「でも…あと5日で20点は…無理だよお母さん。僕達が4日で10ポイントだよ?倍だよ!?無理だよ…」
冷や汗だっらだらの哲郎に、あははははは!と夫は笑い出して、何かをごそごそとカバンから取り出しだした。
「あと20点?えーと、1、1.5、2、0.5…計算すると…おー!これで15点になるよ。あと5点だな」
夫はいろんなポイントシールを取り出し、計算するとニコリと差し出した。ぽかんとする哲郎に、夫が可笑しそうに言う。
「会社の人に、うちの息子が10日で春のパン祭りのシールを集める為、朝から晩までパンで頑張っている話をしたらさ、みんな協力してくれたんだよ。菓子パンとかのが多いけど、食パンとかもあるので結構集まったよな」
そして私も、じゃじゃーん!と、シールを取り出す。
「お母さんもお友達に話したら送ってくれたの。あとおじいちゃんおばあちゃんにもね。今現在で…全部で18.5点あるから、合計で…43.5点だね!もう1枚達成だよ!」
無理だと思っていたお皿ゲットがいろんな人の協力で既に達成されていることに、息子は頭が追い付いていないのか?ご飯茶碗を持ったままぽかんとしている。
「て、ことは、あと5日の間に16.5点を集めれば!なんと!2枚もらえるよ!」
「ほんと!?本当にもう30点集まっているの!?あとちょっと…ちょっとかな?えーと(手計算と暗算計算をする)…食パンが2点だから…あと8斤!?9斤!?無理だよお母さん!!!」
涙目になる哲郎に、あはははと私は笑う。大丈夫と笑う。
そう、うちだけでは無理だが、哲郎が欲しがっている話を親とか兄妹にとか友達にしたら、2枚はゲットしないと兄妹喧嘩に絶対なるよと言われたので、みんなに協力して貰ったのだった。
と、いう事で我が家ではチートを使って10日間で春のパン祭りの白いお皿を2枚ゲット!哲郎は大喜びで友達に報告したが、みんなの枚数を聞いてがっかりした顔をした。
9人家族の大滝君の家ではなんと!!9枚もゲットしたのだ!(やはり人数分は必須なのね・苦笑)と聞いて、流石に私も仰天した。
9枚!!どれだけ食べたの!?それともうちと同じ親族・友達チートを使ったの!?
と、驚きの結果で終了した、息子君の初「春のパン祭り」でした。
因みにその後は参加することはなく(懲りたらしい)お皿はかなり丈夫で長持ちしましたが、地震か何かの時に他のお皿と一緒に割れてしまい、今はないのが…ちと寂しい。
また春のパン祭り…してみようかなあ?とフト思う春なのであった。
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