第31話 夜明け

 少しだけ寝ていた。

 体のあちこちが痛むが、僕はちゃんと生きている。

 あの女には見つかっていないようだ。

 まだ暗いので楽な姿勢で休もう。

 あの女が諦めて帰っているといいが。



 また眠っていた。

 にしてもこれが夏じゃなくてよかった。

 夏は蚊帳がないと夜は眠れない。

 蚊帳の発明者は何か勲章を貰えただろうか。

 貰えていないのであればいつか墓参りでもしてあげたい。



 夜明けの気配がする。

 視界にあるものに形が生まれてきた。

 冗談も考えられるし、お腹も空いてきた。

 元気な証だ。

 さて、一度家に戻ってみよう。




 遠回りをしながら、逃げるときに入った森の入り口の反対側を目指す。

 ゆっくりと警戒しながら進む。

 整備された山ではないが獣道を把握しているので問題ない。

 あの女が返ってくれていればありがたいのだが。


 

「殺してやる!」

 急に遠くから大きな声が聞こえて全身の毛が逆立つ。

 急いで周囲を見回すが女の姿は見えない。

 警戒しながら木の陰に身をかがめ、耳を澄ます。


 すると、啜り泣く声が聞こえ始めた。

「ごめん、お……ん……は、……」

 なんだ?何か言っている。謝っているようだ。

「殺してやる!!」

 また大声が聞こえる。

 いったい何が起こっているのだろう。


「こ……、ご…ん……」

 なんだ?なんて言っているんだ?

 声のする方に近付いてみる。

 そこは普段、できるだけ近寄らないようにしている谷の近くだった。

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