第21話 出所
刑務所を出た。
満期出所だ。身元保証人がいないため仮釈放はなかった。
「シャバの空気はうまいぜ」
独りで呟き、空気の違いを感じる努力をする。未来に希望があれば、空気をうまいと感じるのだろうか。
僕に明るい未来はない。
塀の中に居た15年で世界は大きく変わった。
まさに浦島太郎だ。
普通は更生保護施設に入らなければ生きられない。ホームレスになるか、NPOを頼って生活保護を貰うか。
長く刑務所に入った人の選択肢はそれくらいだ。
僕にはずっと居場所がない。
小学5年生のあの日から感じている。
「このまま刑務所にいたい」と思ったのは1度や2度じゃない。でも戻ることはできない。
もう悪いことはしない。
今年で46歳だ。今更やり直せるだろうか。
いや、手持ちは懲役報酬の20万円だけ。
これだけで人生をやり直すなんて無理だ。
だが、僕には1人だけ頼れる人がいる。
僕の刑期を5年縮めた、あの弁護士の鎌田だ。
彼には「僕のメモ帳とカメラとメモリカードを好きに使ってくれて構わない」と言って、全てを渡した。
鎌田は面会に来てくれた唯一の人物だ。
鎌田は2冊の本を出し、大儲けしていた。
僕の半生を小説にした「盗生」。そして、空き巣対策のハウツー本「伝説の空き巣。その脳内。」。
「盗生」は漫画化や映画化までされて儲け、「伝説の空き巣。その脳内。」もそれなりに売れ、防犯アドバイザーとしてテレビに呼ばれていた。
鎌田はSNSや動画投稿でも拡販を行い、そのインプレッションや再生数でも儲けた。
どのくらい稼いだのか想像もできないが、面会に来るたびに体重と笑顔が増していたので相当な額だろう。
僕の話で稼いだので「分け前が欲しい」と思うが、僕に対する民事訴訟がなかったのは鎌田のおかげだ。
鎌田は被害者全員と契約し、2冊の本で得た利益を僕の窃盗被害の弁償金として充てた。
そのおかげで僕への恨みを残す人はいないと聞いている。
そんな経緯もあり、僕は彼に「金をくれ」と言えずにいた。でも、被害額を完済すれば残りは全て鎌田の取り分なので、やはり少しモヤっとする。
なので鎌田に生活の足掛かりを作ってもらおうと思い、駅前の公衆電話から電話をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます