第8話 たとえ宿命でも

 遥かな時を隔てて再開した朋友。一万年前の骨しゃぶの番犬就任式の日以来顔を見ていなかった赤兎馬天馬とホット・ケーキ・アマイシロップ。2人は再会を喜ぶ。

「天馬様! 私も戦います!」

「いや! お前は今フラフラじゃないか。城で体力を回復させておけ」


 逸るホットをなだめて、回復するまで雪原城で待機するように勧める。その勧めのまま衛兵に案内され雪原城の中で回復を待つ。


 雪原城の門に迫ってくる大将格を次々と仕留める天馬。血煙が一瞬で凍り付いて真っ赤なダイヤモンドダストと舞う。ニャン吉たちもともに応戦しようとしたが……。

「獅子王、お前には番犬としての任務があるだろ? 我らに構わず自分のやるべきことをやるがいい」

「分かったにゃん天馬! じゃあタレ! クラブと合流して閻魔の間へ戻るにゃん!」

「クエッ」

 ニャン吉たちも雪原城へと戻った。


 広場では首を長くして待っていたクラブがゆっくりと歩いてこちらへくる。

「相棒! レモンは無事か……レモン!?」

 タレの背でぐったりとしたレモンを見て悲鳴を上げるクラブ。その声が城内に響き渡る。一刻も早く閻魔の間へ戻るようクラブも強く勧める。


 ニャン吉、タレ、クラブ、レモンはモンモナイトに一言伝言を頼むと閻魔の間へと縮地した。


 閻魔は首を長くしてニャン吉を待っていた。部下と作戦を練りながら待っていた。部下の1人、ヒステリックぶつ代は突然奇声を発しては閻魔の頬を思い切りぶつ。笑いの花が咲く。こういう時に熱くなりすぎてはならない。


 閻魔は、青い顔をして意識が無いレモンを見るやいなや「救護班! 三世レモンを治療せよ!」と命ずる。

 救護班がレモンを診ると「これは! 一刻を争うぞ!」と救護室へ運んで行った。


 開発室から骨男が呼ばれ、閻魔の間で次の行動を協議することにした。


 閻魔が五剣士から受けた報告によると、集太郎とペラアホが風地獄の火喰鳥研究所にいるらしい。

「クエッ! うちなら安心だ! 我が家は鉄壁の要塞で、さらに地形も複雑で天然の要害だ。ヤツらに初見で攻略できるわけないクエッ」と言うとタレはニャン吉の頭を鉤爪で掴む。

「にゃんと!」

「クエクエ、私とニャン犬だけで行く。その方がやりやすい」


「おい! タレ! おめえもこの縮地輪もってけ。それと招き邪王猫も」

「クエッ」

 タレは骨男からできたばかりの縮地輪と、例の招き邪王猫を受け取り説明を受ける。招き邪王猫を翼で取ってじっくりと見たとき、ニヤッと笑ってニャン吉の顔を見た。


 そして、ニャン吉とタレは風地獄の登り門へ縮地する。


 ――風地獄も囚人兵で溢れかえっていたが、険しい山々がその行軍を遅らせていた。


 翼を出したニャン吉はタレの手引きで洞窟や木陰などを利用しながら、巧みに囚人兵の眼を逃れ火喰鳥研究所を目指す。

 その道は険しく、何度もニャン吉は障害物に体をぶつけた。その度に「ぎにゃっ」と大声を出してタレに叱られた。


 特に鼻の穴に木の枝が突き刺さった時は「なんじゃあ!」と叫んだ。タレは鼻血をたらすニャン吉に静かにするよう強く注意した。


 最後の洞窟を抜けるとそこには、緑色の強力なバリアが張られた火喰鳥研究所の姿があった。そこに群がる囚人兵は研究所の鳥たちに手玉に取られていた。鳥は効率よく髑髏印を破壊していく。


「クエッ! 帰ったぞ!」

 研究所の皆はその声を聞くとバリアの一部を解いてタレとニャン吉を中へ迎えた。その後に続いて中へ侵入しようとする囚人兵は、タレの一扇ぎで火達磨にされて炭にされた。


「クエッ! 父さんはどこにいる?」

 娯楽室へ入るなりタレは皆に問いかける。すると、タレの声を耳にした直火はこちらへ駆けてくる。


「クエッ! タレ無事だったか!」

「クエッ! 父さん。大丈夫だ……それより」


「クエクエ、分かっている。苦歩歩と集太郎とペラアホだろ?」

「クエッ! 苦歩歩はどうでもいい。集太郎とペラアホはどこだ?」


「彼らなら客間にいるクエッ。呼んでくるクエッ」


 直火は家に戻り集太郎とペラアホを客間から連れてきた。

 玄関から飛び出してきた集太郎とペラアホはタレとニャン吉の顔を見るなり号泣しだした。何か怯えているようである。

「もう大丈夫だにゃんよ集太郎、ペラアホ」

 ニャン吉は泣きじゃくる虫たちに言葉をかけるが、虫たちは安心するどころかますます恐怖で羽をひきつらせる。


 集太郎が声にならない声を振り絞り衝撃の言葉を吐く。

「ニャ吉……蝶々の予言ではこの戦いでチーム邪王猫の誰かがって出とるんじゃ……。しょれも……回避率もない予言なんじゃ」と集太郎はここまで言うと言葉を詰まらせた。


 その予言はニャン吉たちを恐怖のどん底へと叩き落とした。


 元々集太郎の予言は必ず当たる。それは定業とも宿命とも言える。ただし、予言を知ってしまえば努力次第で回避することもできる。その割合を回避率と呼ぶが、今回の場合回避は期待できそうにない。

 武蔵との修行で集太郎の予言の精度は格段に上がり、かなり正確に予言できるようになっていた。


 ニャン吉もまた動揺を隠すことができず震える声で集太郎に「だ……誰が死ぬ……にゃ」と問うた。だが、泣いていてことにならない虫たち、その代わりに湯上がりの苦歩歩が出てきて「そこまでは判らないと言っていたよ」と教えてくれた。


 迫りくる死がニャン吉たちに暗い影を落とす。


「クエッ! 大丈夫だニャン犬! 絶対に大丈夫だ! 例え宿命でも! ひっくり返すぞクエッ!」

「ほうじゃ! 宿命なんかに振り回されてたまるか!」

 その死は己の宿命かもしれない……それでもタレは負けない。ニャン吉も奮い立つ。集太郎もペラアホも泣き止み奮い立つ。

『宿命何するものぞ!』と自身を奮い立たすのだ。


 直火は成長した我が子の姿を見ると、感極まり涙した。

「クエッ! タレ……立派になったクエッ! でも……でも……」

「クエッ! 大丈夫! 宿命には必ず勝つ! ミケ・モモ連合にも必ず勝つクエッ!」

 タレは父・直火の肩を叩く。直火もその心に応え震える手で涙を拭う。


 口を固く結びその場を見守る苦歩歩の口が動き始めた。その右手にはイカ焼きが、左手にはビールが、口には食いかけのおつまみが、おまけに喉に詰まらせ皆に助けてもらう。


 イカ焼きとビールを机に置いたのを見たタレは目を怒らせ、苦歩歩を蹴り上げ火達磨にする。黒焦げとなった苦歩歩であった……。


 ――その頃魔界の伏魔殿では……。

 ミケ、モモ、策幽、柿砲台、不埒鳥、ケロケロ外道が顔を揃えて何か悪巧みをしていた。

 果たして何をする気か……。


 緊急事態宣言レベルニ、地獄封鎖ヘルロックダウン中。


『次回「悪巧み」』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る