ヤンデレ彼女を癒したい

サンピッピー

深谷さんは私が好き

第1話 深谷さんが私を好きな理由

 深谷愛菜ふかやあいな。彼女のことを受け止められるのは私しかいないと思う。今朝も、朝から沢山のラインが押し寄せてきていた。数えてざっと二十件。どこで好きになったのやら。


 思い当たることはいくつかある。例えば、落としたハンカチを拾ってあげたとか。毎日おはようって挨拶したりとか。クラスの席が隣になったとか。同じ日直になって黒板を消したりとか。

……クラスメイトみんなにすることなんだけどなあ。


 そう思っても、もう手遅れだった。彼女は私を選んだ。けれどそれで良かったと思う。私なら彼女の想いも受け止められるから。


「おはよう、あいな」

「おはよう!めめ、好きすぎて今朝も電話掛けちゃって。あのあと送った文章、読んでくれたかな?」  


 案の定、彼女は沢山連絡を送ることを愛だと思っていて、一切反省するそぶりはない。朝から家の前にいるし、家から出た瞬間に手を繋いでくる。マフラーで首元を覆ってきて、二人でマフラーをする。人前でも遠慮することはなく、拒否権はないらしい。朝から電話に鈍足の二人マフラー。前はあんまり見えてない。電話もあったからきっと遅刻だ。


「もー愛菜。簡潔に要点まとめてね」

「え……私のこと嫌い?」


 ちょっとしたお願いもすぐに嫌い判定されてしまう。多分彼女は、不安症なんだ。前も家に帰りたくない、ずっと居たいと言っていた。


「いや、今の気持ち、まとめるとどうなるのかなーって」

「好き、けど、命令された、嫌わないで、私は好きなの、お願いっ!」


 そして、思ってることは全部口にしてしまう。人目も憚らず。彼女は隠しきれないほど私のことを溺愛しているだと思う。

……そんな溺愛するエピソードあったかなあ。


「これどう思う?」

「え、これって?」


 手を握るだけもうこんな感じだから。猫にマタタビ、鴨にネギ。愛菜には手をぎゅっと握ればこんな感じ。だから、彼女は。


「はあーもうっ!めめ好きっ!ちゅー」

「はいはい、学校遅刻か。謝らないと……」


 やっぱり、重い。そう思っても今となっては、そんな溺愛させるエピソードを作っていた。たぶんきっかけはほんの些細なことで、多分ハンカチを拾ったことなんだと思う。そうしたら、深谷は何度もハンカチを落とすようになって、気がつけば愛菜にハンカチをプレゼントしていた。そのことで、朝から長電話が続いて、遅刻しそうなのにゆっくり歩いてきた。


「褒めてくれたー今度は要点まとめたの、百件くらい送っちゃお……!」

「それより、今度は朝早く会おうね」

「は、はいっ!」


 学校には案の定遅刻した。登校時間は朝の八時半。もう八時五十分。ロッカーも廊下も人影はない。ホームルームの先生もいなかった。


「あ。あれ……先生は」

「もう次の授業みたい、今度からこの時間に来ようよー」

「それなら朝早く来る方がオススメかなあ」「うんうんうん!ずっと一緒だもんね」 


 どれだけ長電話が長く、二人マフラーは速度が遅かったのだか。けれど、私が嫌な目で見られることはない。昨日も、同情されてばかりだった。けれど、愛菜が悪いわけでもない。こうなってしまったのは、多分私のせいだ。


「おはよー、めめ、今日もお疲れ様……窓から見てけど。二人、マフラーしてた?」

「平塚さん、私顔ぐるぐる巻きだったでしょー」

「あーやっぱ。いや、前見えてた?」

「いやー」

「あ、そうそう。今日もチョコあげる」  


 こんな感じで、隣の席の平塚さんはいつも私に同情している。時々チョコをくれたりもする。愛菜に嫌われないように。それを私は愛菜と分ける。丸い黒縁眼鏡とチョコレートな平塚さんは、いつも労ってくれる。


「あ、また他の女と話してるんだ?私とおしゃべりしてーって、今私の文句言ってた??」「うん、はい、朝ごはん」 


 それに今日は珍しくホワイトな雷おこしだ。それを気にせずばくりと一口にして食べてしまう。やっぱりお腹が空いてたんだ。けど他の女って、平塚さんのお菓子いつも食べてるのに。


「やだ、どんな文句言ってたの?お願いお願い怒んないから怒んないから言って!」 


 それは確実に怒るセリフだ。けど、愛菜は話せば通じる。何だかんだ私の味方をしているから。


「朝マフラーで前見えなかったなーって」「え、じゃあ私のこともう嫌い??」

「いや、すごく安心した。一緒にいれば平気だから」

「きゅんっ……♡」

「ほんと頭あがらんわ……」


 そんな愛菜は痩せている。ハンカチを拾った頃より大分健康的になった気もするけれど。けれど、朝ごはんは抜いてでも家にくる。そのくせ、いつも腹を鳴らして、恥ずかしそうにするから。ほっとけなかった。もう少し、ちゃんとしたものをあげよう。グラノーラとか、カシューナッツとか。


「……てか、きゅんとか言っちゃうタイプなんだ??」

「ああん?文句あんか?」

「いやあ。羨ましいなーと。私には恥ずかしいから」

「んだとこらあ」


 なんて、また痴話喧嘩を始めてしまうあたり、愛菜と平塚さんも仲が良い。ちなみに、平塚さんと呼ぶのは愛菜に頼まれたからだ。下の名前で呼んで良いのは、家族だけらしい。愛菜を含む。


「ほらほら、喧嘩しないで」

「この人、めめのこと奪おうとしてた……今日もチョコ渡してたから」


 平塚さんは参った、という顔をしていた。「大学もー、職場もー、墓場も一緒でー。子供は五人くらい作ってー」なんてことも言っていたくらいだから。そんな愛菜の一言一言をよく覚えてた。


「あー。めめ、次教室移動だからね」 


 なんてぼーっとしている暇もなく次の授業になろうとしていた。次の授業は別々のクラス。愛菜は私のことばかりで勉強は全然していないというから、クラスが別になった。多分来期からは一緒のクラスになれるんだと思う。


「ごめん愛菜、またあとでね」

「まって!めめっ」


 追いかけてきて、抱きしめられた。まったく、愛菜は困ったほどに愛が重い。手でじゃあと一言サインを出して歩くことにした。


「ユリカゴちゃん。ほんと、いつもラブラブじゃん。お疲れ……」

「平塚さんー今度勉強教えにきてよ」

「うん、ラングレーの問題だけは得意だから任せといて」


 そう言って、隣の教室に、数学の授業に移る。多分休みの時間になったら、愛菜はこの部屋まで駆けてくると思う。そうしたら。


「あ、愛菜っ……なーに。忘れもの?」

「ご、ごめん。忘れ物しちゃった、私のこと忘れないで」

「おーげさだなあ」


 今。追いかけてきて、何かと思えばほっぺにキスされていた。忘れて追いかけてくるなんて。早く教室に戻った。


 この高校のホームルームに内申点はなくても、授業の内申点はある。会った頃は学校もサボりがちだったのだとか。


「あ、しかもハンカチ落としてる。あんなわざとなのって……」

「いいの。いつも拾ってあげる私のほうがいじわるだから」

「いや、ほんと感服です」


 けれど、きっと愛菜は今のは流石にやり過ぎたのだと反省して、多分授業中に悩んで授業のことが入ってこないんだと思う。


……いきなり、こんなにギツギツ迫っても受け止めてもらえるわけが……はあ終わった……。


 などと考えて、頭を悩ませているだろうから。そうでなければ嬉しい。もっと信じさせてあげないとと思ってもいる。けれど、あること無いこと悩みがちだからほっとけなかった。それも心配しすぎかと授業に集中する。内容が本当に内角を求めて体積を計算する問題だとは思わなかったけれど。びっくりして急いで問題を解いた。


 教室に戻る。まだ授業が続いていた。愛菜は教室の角から覗いてくる。目線が合った。手と手を重ねて、長い黒髪を整え、目を何度もぱちくりさせていた。何を考えているのかは分からない。けれど、きっと会いたいとかそばにいたいと思っているはず。


 ずっといてあげるのか、何度も会うのがいいのか、はまた考えるとして。彼女がこんなにも私のことを好きになった経緯とか、理由とかはよく知っていた。


 

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