恋の踏み切り
百合 一弘 ーゆり かずひろー
第1話
噂は本当だった。
今まで一度も信じていなかった噂だったけど信じるしかなかった。信じる以外の選択肢が残されていない。やっと現実を受け入れた。受け入れた瞬間、後悔の粒が目から溢れ出る。真っ白な布団を粒が濡らしていく。
病室に閉じ込められてる私は彼女に会いに行くことすら許されない。亡骸に言ったって意味はないかもしれない。でも意識が無かろうと私は彼女に謝りたい。「ごめん」その3文字だけでも伝えたい。
私は末期癌を患っている。余命は数ヶ月。余命宣告をされた時は信じられなくて自分の耳と目。ありとあらゆるものを疑った。でも
重すぎる足取りで病室を出た時にスマホが鳴った
【大丈夫だった?】
ただただ心配する文章。ちょっとした出来事だったら彼女の優しさに安心させられただろう。でもその時の私からしたらこんなに優しい彼女を苦しめてしまう。申し訳なさで泣いてしまいそうだった。
知り合いが亡くなる。大きかれ少なかれショックな出来事。私だっておじいちゃんが亡くなった時はショックだった。優しい彼女はどうなってしまうだろうか。
深く息を吸って私はスマホの通話ボタンを押した。
『アキ! 大丈夫なの?』
スマホを握っていたのだろうすぐに彼女は電話に出た。声だけで心配してくれるのがわかる。
『大丈夫……あのさ………』
先の言葉が出てこない。本心が喉を締め付けてくる。でもこうするしか私にはない。さらに深く息を吸った。
『わっ……わっ別れよ』
言えた。一言でも彼女の声を聞いたら決意が揺らいでしまいそうだった。間髪入れずに電話を切って連絡先を削除した。その瞬間、ずっと押さえていた涙が溢れ出た。
「別れたくないよ……一緒にいたいよ……」
でもそれは彼女を悲しませる。縁を切った方がいいのだと自分に必死に言い聞かせる。でも涙は止まることを知らなかった。
そして今日その優しい彼女が亡くなってしまった。踏切で電車に轢かれて亡くなったと。
彼女が亡くなってしまった原因は自分にある。彼女に失恋させてしまったから。彼女が事故に遭った踏切は失恋の踏切と呼ばれている踏切だったから。昔からその踏切は失恋した人が渡ると死んでしまうという噂があった。
今までは信じたことがなかった。でも今はこの噂は紛れもない事実。彼女の死がそれを証明していた。
私が彼女を殺したようなもの。そう思うと罪悪感で息もできなくなっていた。暗くなる視界に亡くなったはずの彼女が見えたのはきっと私の願望なのだろう____
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